1219話 自分を信じ…るな

腹の立つことに長々と理由や説明がつく場合は、自分で自分を疑った方がいいかもしれない。


人ってそんなに複雑な理由で憤ったり怒ったりしないみたい。


ある方の会社であった腹立ち話を聞いていた。


ルール違反をした他部署のメンバーをとがめたら、その上司が割り込んできた。


詳しく聞くと、他部署と彼の部署の役割の違い、そこにおけるルール違反の意味、上司の本来の役目と知りうる情報からの判断と態度の不適切さ、さらには彼の直属の上司の部下にたいするふるまいの批判まで。


彼の部署の全体の中における位置づけから、愛社精神の裏付けを持って繰り広げられる彼の言には、聞くこちらを持っても十分納得させるだけの内容があった。


んが、長い。話が長い。


「人ってそんなに複雑な理由で憤ったり怒ったりしない」みたいなのである。


そこで彼に聞いてみた。


「他の部署の備品を使おうとした人が、たとえば相武紗季水川あさみふうの、いつも折り目正しく礼儀正しく、態度よく感じいい女の子だったら、同じ反応なん?」


彼はきっぱりといった。


「いいえ。大目にみます」


「最初にルール違反したやつが嫌いなだけとちゃうのん?」


「はははは」


図星のようであった。あの愛社精神を背景にした問題点指摘の数々は何だったんだ。


しかし、決して何かをごまかそうとしてその内容のことを語られたのではなく、本気で心からそう思って語られていたと思う。だからやっかいである。その時は心からそう思っているんだから。


このように、自分は自分にしょっちゅうだまされるのである。


筆者も、最近は自分の言ったり考えたりすることにあまり信を置かなくなった。けっこう気楽である。