Gフォレのチャレンジ精神
Gフォレさんの洋館ミステリー劇場の楽屋整体に行き、そのまま観劇させていただく。
劇団Gフォレスタさんは、アホである。
先日行った神戸公演では、ロールプレイング演劇で、作品の要所要所で、「この続き、どちらが観たいですか?」と観客に多数決を取り、続きを演じるという暴挙に出た。(ってこの試みも数回目です)
おかげで役者は、犯人・結末が違う数種類の台本を覚えなければならず、さらには「最後まで出番がなかった」という悲劇の役者までを生み出すのである。筆者観劇のおりにも、実際に出番がなかったにもかかわらず、最後のあいさつのみ登場した役者が一人いた。
観客の多数決によってその後に続く台本が変わるので、多数決後に登場する役者も変わる。せりふも変わる。ゆえに出待ちをする役者の緊張感もかなりなものである。
過剰な自意識は、おうおうにしてパフォーマンスを下げる方向に向かうというのはスポーツも演劇も同じである。下手な役作りを再現しようとして独りよがりの観ていられない芝居になってしまうのをたまに見る。
集中の密度が高い状態で、とっさに次の展開に応じた役になりきってぱっと演じる。かえって余分のないいい芝居が見れたりもする。
ふつうに公演するだけでも大変なのに、それをさらに負荷を余分にかけようかけようとする。そのあたりのアホさ加減がすばらしい。
もう一つ極秘情報を付け加えるならば、そういうややこしい作品なら時間をかけて十分に稽古を積んでおきたいというのが人情だろうが、そういうややこしい台本なので、台本が完成するのもやはりだだ遅れになりがちだというのである。
ますます追い込まれる役者たちである。
というような劇場での本公演の間に、好評につき多数上演されているのが「洋館ミステリー劇場」である。神戸の異人館にあるような「洋館」をそのまま舞台にして推理劇をする。
評判がいいので、あちこちから声がかかり、複数の洋館のみならず、昭和の香りのする大型キャバレー、営業中のホテル(研修宿泊施設)などでも上演の運びとなり、このたびは天満の天神さん南にすぐの大正時代の建築「フジハラビル」である。
オーナーが大変おもしろい人で、その人生は一作の「講談」にもなっているぐらいである。したがってこのビルのいわれ、復活物語などを書くと長くなりすぎるので割愛。
大きい劇場での本公演の際には、ストーリー転換地点にて観客にストーリー選択への参加を強制した演出の丸尾氏であるが、洋館ミステリーシリーズでは「犯人を推理して提出せよ」という謎解きを観客に強制してくるのである。
本公演での「次の展開の選択 AかBか」では、選択の結果、ある登場人物が突如逆上してあらゆる出演者を撃ち殺し、自分も自殺してしまったため、あらゆる背景があきらかにされず、事件の真相がなんら明らかにならないままで突然芝居が終了してしまう、という回も実在した。
あまりのことに観客が暴動寸前となり(それはウソだけど)、特別に今回だけですよの注釈付きで、もう一つのストーリーが展開されることになり、暴動は鎮静化した。
それ以後の「分岐点」での多数決の時点で、客席には異様な緊張感が漂ったものである。選択しだいでは、また突然終わってしまうかもしれないからである。
そして「自らが選んだ未来」という仕組みにからめとられた観客は、より以上に役者の一挙手一投足、一言一言に集中してしまうということになった。
そして今回、途中まで観た段階で、犯人と根拠になる推理を文書にして提出せよという演劇なのである。提出後に謎解きの部分が上演され、正解者にはプレゼントがあるという具合である。
正統な演劇からすれば邪道かもしれない。
しかし、筆者は好きである。なんせただのレトロビルである。使える部屋が地下と4階であり、エレベーターはない。なんせ大正建築ですから。舞台のそでというのが存在しない。舞台のそでからのぞきながら出待ちをするというのができない。セリフだけを頼りにタイミングをはかる。
さらに地下で待ち受ける役者は、およその時間はわかれども、実際にはいつから地下での話になるのかは分からない。さらに本日の最終回は、台風の風雨がもっとも強くなる時間帯に最終公演となった。4階から地下への入り口は、一度屋外に出て地下入り口に向かう動線になっている。
が、暴風雨のため、外に観客を誘導するというのがはばかられる状態になった。ので、開演直前になんと「楽屋として使っている一階の部屋を渡り廊下として使用する」という前代未聞の決断が下された。(ところは立ち会ったけど実際にはどうなったか帰ったからわかりません)
閉鎖空間で照明や暗転を使い、虚構の空間に観客を誘おうとする演劇で、観客が素に戻ってしまう「移動」を入れ、かつ「楽屋」まで見せてしまう(やむなくだけど)今回の講演である。芝居に引き込む力量が役者や演出に要求される度合いはますます高くなる。
さらにこの公演のもう一つのねらいは、この「フジハラビル」自体がとってもおもしろいので、ぜひみなさまにご紹介したい、という主催者側の意図がある。開演前にオーナーの「簡単なこのビル話」があったが、非常に興味深いこのビル物語であった。
つまり、この公演はぶつ切り観劇という通常以上に役者と演出家に高いハードルを設置し、謎解き参加という設定をすることで観客に「気楽に観劇させない」というハードルを設置し、さらに「このレトロビルのおもしろさを観客に伝える」というものすごく欲ばった公演なのである。
今回は一つの公演で二つの謎解きを行う構成だった。その分一本あたりの時間が短く、あっというまに「犯人どトリックを記入せよ」の時間となった。おいおい、あまりに材料が少なすぎるやないか、これで推理できるとは思えまへん、と思っていたが「解決編」を見ると、その少ないストーリー展開の中でちゃんと正解に至る材料は提供されておりました。
演じ手が、自己満足的で何か頭の中でこねくり回したようなものを見せられるよりも、あるいはいかにもいかにもという作品を見せられるよりも、こういうチャレンジ精神とサービス精神に充ち満ちた試みは筆者は大好きである。
なので、開演前におじゃまして、こうして役者さんが少しでもいいコンディションで舞台に上がれるようにお手伝いしたくなるのである。
写真は、役者さんたちがメイク中だったので、演出の丸尾氏を整体中の筆者。
ちなみに、この洋館ミステリー劇場は、客数がきわめて少数に限定される上に大人気なので、チケット発売後、けっこう早く完売してしまう。次回公演は神戸の洋館でなんと11月にあるらしい。
確か7日からチケット発売とのことなので、興味を持たれた方は劇団Gフォレスタさんで検索してみてください。