498話 夏やす めず

夏休みである。と言っても筆者ではなく3人の子ども達がそうである。


夏休みであるから、土日でなくとも子どもたちと遊べるはずが、ぜ〜んぜん遊べないままにもう8月も9日である。7月8月はそれ以前よりもスケジュールを空けて組んだような気がしていたがどうも錯覚だったようである。


遊ばないどころか、金曜日に和歌山を出た後、大阪・大阪・東京・東京・大阪・大阪と5泊6日も家に帰っていない。


しかしながら、土曜日には、屋根の上から淀川花火に感動の時を過ごし、東京では快氣法新トレーナーの方々とお会いし、M村幼稚園のおん年93歳!である園長先生とお会いしてその波乱の半生のお話を伺い、山岡鐵舟直筆の書を拝見し、東京へ通っていた頃にせっせと汗を流した代々木八幡の旧道場のご近所のお風呂屋さんに久々に行って(リフォームされていた)心地よさに浸り、ミュートスタッフご一同様で話題の「亀田三兄弟も来たで」という韓国料理屋さんでランチを食べ(ごちそうさまでした)、ミュートの今とこれからについて談論活発議論白熱けんけんがくがく勇気凛々の時間を過ごし、雑誌秘伝の撮影がたまたまあったため、それにもモデルで登場させていただくなど、充実の怒濤の日々であったことは確かである。



ところで金曜日に実家に泊まったところから始まった今回の「5泊6日の全国ツアー(大げさである)」であったが、2日目の朝、実家に財布を忘れて出発してしまったことに気づいた。取りに帰る時間はないし、現金から新幹線チケットなどは別に持っているし、財布の回数券は東京では使わないし、献血手帳も献血する時間なんてないから不要だし、と小銭のみポケットにちゃらちゃら入れて作戦で過ごしたのであった。


東京での秘伝の撮影は6時半開始。新幹線に間に合うように8時前で抜けさせて頂いて9時前ののぞみで帰阪。道場は新大阪だから、夜中についても畳敷きの道場でそのまま泊まれるので、睡眠時間はたっぷり取れる。問題は風呂であるが、最近道場と新大阪駅の間に「ネットカフェ」なるものができ、ものの400円も出せば、シャワー浴び放題、漫画、新聞、雑誌読み放題、ドリンク飲み放題で、先日実際に行ってみて勝手は分かっている。


ぎりぎりまで雑誌の撮影、ゆとりののぞみ帰阪。疲れを癒すネットカフェのシャワー。シャワーの後は新聞と雑誌を3つほどはしご読みして、無料ドリンクを3杯ほど飲み、料金の倍ほどのサービスを堪能した後道場で悠々と寝る。一点のかげりもない完璧盤石なしぶ〜い計画であった。


財布さえあれば。


そのネットカフェというのは、会員制なのであった。入会済みの筆者であるが、会員証も免許証も献血手帳も全て財布の中である。その財布は3日前から実家にある。


会員証がないならないで入会金なんて100円か200円だからあらためて入会しようと思ったが、入会には免許証などの身分を証明するものが必要である。身元のよく分からないやつは入れてやらない、という鋼鉄の掟があるのである。


身分を証明するものがない。鞄のあらゆるポケットを探してみたが、やっぱり何一つない、ということに気づいた。


今、暴漢に襲われて非業の死を遂げたならば、筆者は身元不明の死体ということになってしまうのだ。


やむなく道場へと帰り、タオルで体を拭いて就寝。