552話 しわ好きな自売機

道場の前の通り、ファミマの交差点から道場までの20メートルほどにジュース・たばこなど6台の自動販売機が並び、筆者はその近さから愛用している。


夜のクラスを終えて、帰路につこうというとある日、神戸っこS川さんと連れだって歩いていた時のことである。


いつもの自動販売機に千円のピン札を入れて購入を試みたところ、何回入れ直しても「ダメ」と拒否され、ずずずず〜っと戻ってきてしまう。


自動販売機というのは、もともと真券でないものを拒否することによって、その自動販売機の設置者に損害を与えないようにセンサーを働かせているものと筆者は理解している。また自動販売機によっては


「しわは伸ばして入れろ」

という意味のことが明記されていたものもあった。

新札とういうのはしわはゼロである。再●館製薬のドモホルンリンクルのお世話にならなくてもいいようなぴちぴちのしわなしお肌である。

しわの皆無のお札を入れて拒否された場合、筆者にはもう打つ手がない。


傍らのS川さんがそれを見て

「ピン札があかんのんとちゃいまっか?」

とアドバイスをくれた。


半信半疑でしわ札を入れたところ、

さすがにS川さんである。だてにアメリカで身体調整を10年に渡って修業したわけではないのだ。彼の炯眼は、たちどころにピン札嫌い、古びてこそお札、という自動販売機くんの(って自動販売気は男性だろうか、女性だろうか。挿入したのち、誕生するという構造は女性的な気がする。)

・・・という自動販売機さんの身体的(っていうか機械的)特徴を見抜いたのである。


さて後日、この時と同じぐらい古びたお札を入れても拒否されるという事件(?)が起こった。


その時、筆者が持っていた別に入れ直しに使用できるお札というのは、一部分が破れたのをセロテープでひっつけたんだけど、逆側にも切れ目がはいっちゃった、という「スパンコール付きふとももちらりチャイナドレスを着た老婆」のような超しわしわお札しかなかった。(破いたのもテープで止めたのも筆者ではない。何代か前の持ち主であろう)


まさか、と思いながらその札を入れた・・・・ら、自動販売機ちゃんはまたしても、直ちに全ての商品のライトが煌々とともり、戦闘態勢を整え、スタンバイオッケーになるではないか。


う〜む。商品が買えた筆者にとっては非常に嬉しいのであるが、この販売機のセンサーは、できたてのお札から遠ざかるほど喜ぶようである。真券が通用しない販売機というのは、実は偽札を平気で通過させるということはないんだろうか。


しかし、これを確かめることは犯罪になってしまうので、筆者の手が後に回ることになる。たかだかそれだけのことのために、この毎日毎日楽しい人生を棒に振るのは惜しい。したがってこの謎は永遠に胸に秘めざるを得ない筆者であった。