558話 治癒ってなんだ

わが奥方が転倒し、右肩の粉砕骨折という大層な(ってほんとにたいへんなんだろうけれども)診断を受けた。


「手術をしてボルトで止めた方がいいけれども、しないでもいけるがどうするアルか?」


とのDrの宣告に「手術しません」という方を選択したら、あっさりと帰宅させられてしまった。


【右肩関節粉砕骨折で、3週間安静で全治三ヶ月】という診断を聞くと、数週間は病院のベッドの上で身動きできないようなイメージがある。


「なんで入院しないですんだの?」と家内に聞くと


「手術しなかったから」


とのこと。要するに切らない限りは、病院で特にやれることってのがないってわけね。


右手はギブスをはめられているが、折った肩関節には


「こういう部分にはギブスはつけられません」(Dr)


ということで、肩関節よりも先の【折れてもなんにもしていないところ】にギブスをつけて、腕を吊っている。一応「腕の重さで肩を正位置に引っ張ってくるため」という説明であったそうだ。


薬は「痛み止め」と「筋肉をやわらげる薬」と「胃袋の粘膜を守る」お薬。


「骨の治癒を促進するお薬ってないのね」


そうなのである。骨折の治療といっても、実際に骨をくっつけ修復するのは


「本人の力なのでございます(byチャングム@めでたく王様の主治医になりました)



『治療』とか『医療』という単語が、『修理』という言葉と同じようなニュアンスで使われているように思え、違和感を感じるのである。ものの修理と生き物の治癒というのはぜ〜んぜん違うと思っている。


だって、病気があろうとなかろうと、生き物ってのはずっと常に変化し続けているものだと思うからだ。その変化・対応の仕方が日常と異なり、苦痛や常と異なる症状が出る場合をとって「病気」と呼んでいる。


好きな女の子の前に出ると、脈が早くなり、血圧が上がり、言語に障害が出るのだって、脈と血圧と意味不明な発言だけを取り上げれば立派な病気だ。しかし、こういう場合は文学などでは「ときめく」と称される。好きな子を目の前にときめかなかったらおもしろくないよね。


同様に、へんなものを食ったら吐いたり下したりするのが正常な「バランス維持」のための反応なのである。



電気製品が修理できるのは、基本的に作られた時と同じものだからだ。それで新品のそれと故障のそれとで異なっている部分を、部品をとっかえるなり、外れたところをつなぎ直すなどすれば修理は完了する。


工場を出荷した時とは、中の配線が似てもにつかぬものに変わっていたのでは、修理屋さんもお手上げであろう。


しかし、生き物というのは外見上はさほど変化はないようであるが、内部は常に変化している。取り巻く環境の方が、熱い、寒い、乾く、湿っぽい、好意に取り巻かれている、悪意にさらされている、十分食っている、食えていない、偏って食べている・・・・などなどの変化の中で「変わっているように見えず、一定を保っている」ということは、その生き物自体が変化してバランスを取り続けているからである。


骨折はギブスが治すにあらず。また骨折した箇所のみが影響を受けているのではなく、その影響は全身におよび、また全身の状態のバランスを取ることで、骨折箇所の治癒も促進される、と、そういった視点で、いっちょ「骨を折る」ことにしようと思っている。