671話 愛の一日70キロ

彼も大学時代に徒歩日本縦断に挑戦した。彼は鹿児島県発で北上していった。日本海側を歩き、島根県大田市まで来た。そこから大学のある松江まで70キロ以上ある。


通常は優に二日かかる道のりである。しかし、彼には当時彼女がいた。当然彼女は松江に住んでいる。(ちなみに筆者の下宿の近所だった)


大田市までたどり着いた晴やんは、「明後日には彼女に会える」とは思わなかった。


「明日には彼女に会うぞ!」と思った(推定)


会うからには会える時間に到着しなければならない。20年ほども前の時代である。携帯メールなんて想像もつかず、パソコン通信だってなく、ワープロが珍しかったころで、テレフォンカードが生まれて数年というころであった。


彼女への連絡は「下宿に電話して呼び出してもらう」という方法しかなかった。


「今日深夜到着予定(^-^) 待っててね 晴やんより」


なんてメールは送れないのである。


彼は昼間に電話したことであろう。そして


「今日のな、今日の夜には行くからな、待っててな。起きててな!」


などと告げて(推定)、そしてひたすら彼女の部屋へとと70数キロを突進したのであろう。


彼が国道9号線から、筆者のバイト先の居酒屋に顔を出したのは深夜ではなかった。夕方ではないが、宵の口であった。


一日限りの鉄人マラソンではない。リュックに野宿道具などを背負って、それまでも数十日数十キロずつ歩き続けた後の70キロである。


彼は最終的には植村直己さんの記録を更新する49日で日本縦断した。


愛の力は強い。


しかし、筆者には晴やんのような強力・強烈なモチベーションはない。だからこそ、そこのところを和の身体操作でなんとかならんもんかいなあ、と夢想するのである。


しかし、現状は速度を上げるときつくなるのである。力みが出るのである。


まあいい。後5年ある。それまでになんとかしよう。