1421話 筋目

魚の体操をずっとやっていたら、徐々に魚の体感が増してきた。


尾びれで強く水を蹴って推進力に変えているのが魚の泳法だと思っていたが、どうも違う。


水の中にあるS字のレールに乗って、進んでいるようだ、という感触を得た。


存分に感触を得たところで、人と向き合うと、その人と自分の間にある湾曲した通り道のようなものがあるように感じられる。


そのレールに沿って、間合いを詰めたり、突きや蹴りを入れたり、崩したり、声を届けたりなどいろいろと試みてみる。


少なくとも、今までの私にはできなかったことが、いろいろと出来るようになる。


筋目に沿って、流れに乗るとできる。


そういった1秒から数秒、長くても5〜6秒の世界では、筋目に沿って流れに乗るのと乗らないのとでは全然違う。


本当に簡単に技がかかったり、相手が崩れたりする。もちろん、限られた条件の中でできることであるので、万能だとか最強だとかというわけではありません。


しかし、つい昨日まで思ってもいなかった、人と人の間にある「それ」の存在を確信するには足りる手応えである。


数秒という時間軸の中では成立する。しかし、相手の懐にするすると入ったかと思ったら、ほとんど抵抗なく相手を自由に崩すというような体験が、日常生活で実際に訪れる可能性は非常に少ない。というか、ないことを願っている。


するすると流れに乗って、すらすらと物事が進み片付いていく、ということが、日常の生活や人間関係、仕事に生かせてこその値打ち、というふうに思っている。


数秒の時間軸でおこなう武術的な動きでは可能なことを、数時間、数日、数週間またはそれ以上という時間軸で営まれている「生活」や「仕事」で発揮させるにはどういう手がかりで迫っていけばいいのか。


今の時点では、そこで要求される流れの速さをキャッチすることではないかと予想している。


正解の動きのコースだとしても、速度が合わないと効果は出ない。


たとえば、自転車は、遅すぎたら立たない。速すぎたらもたない。


頭で考えると「何をやるか」で、成功したりうまくいったりするという考えに傾く。


例えベストのアクションではなかったとしても、速度が合っているだけでも相手に変化をもたらすことができるのではないか。


そして、その「速度」がわかることで、何をやればいいのかということも見えてくるのではないか、という予想である。