死の淵を見た男  吉田昌郎と福島第一原発の500日

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吉田所長からの聞き書きの本かと思っていたけれっど、そうではなく、その時福島第一原発にいた多くの技術者、協力会社社員、消防、自衛隊、地域の人、津波で亡くなられた東電社員の遺族、多くの声がつづられている一冊です。


現在も収束には程遠い福島原発ですが、3・11直後にその場にとどまり、決死の思いで線量の高い建屋に突っ込み、ベントの作業や注水の下ごしらえをした人たちがあって、現状以上の壊滅的な被害にならなかったんだということが分かります。


吉田所長をはじめとする多くの人の死力を決した働きがなければ、私たちの住んでいるこの国はすでに死に体になっていた可能性が大きいです。再稼働もへったくれもない。読んでいて何か所も涙がこみあげるところがありました。


さらに、朝日新聞が公開している「吉田調書」によれば、膨大な量の使用済み核燃料が貯蔵されている4号機のプール。ここも、かなり高い確率で水が減り、核燃料が水面に露出して高熱を発して、メルトダウンに至る可能性があったようです。たまたま、プールの上にもうひとつ貯水槽のようなものがあり、たまたまそこの水は抜くはずだったのがなんだったかの作業の遅れか何かで蓄えられており、そしてプールと貯水槽を隔てている弁が、水圧の関係か地震の揺れの関係かで開いて、そこからの水が使用済み燃料プールに入って来たらしい。


だから、今こうやって日常生活が送れているのは、決死の思いで注水のルート確保をした人たちをはじめとする現場で作業された方々のおかげと、上の貯水槽に水がたまたまあって燃料プールに流れ込んできたという奇跡的な偶然の上に成り立っているということでした。


ほんの少しの何かがずれていたら、今の日本はもうすでになかったらしいんです。


吉田元所長のご冥福を心からお祈りします。日本を守ってくださってありがとうございました。