277話 親知らず完結編(おおげさ)
さて親知らずを抜いたのである。前号でピーナッツと書いたが、そこには若干の虫歯部分もある。
「どうでっか、津田さん、ぼろぼろでっしゃろ、がはははは」
と歯科医のN先生は笑う。
あんたなあ、こんな情けないものを大事に1年も口の中にとっておいたんだっせ。1年前に来た時に、さっさと抜いとったらよかったんだっせ。先生の言うことは素直に聞きなはれ、というニュアンスをその
「がははははは」
の裏に聞いたのは、素人のひがみであろうか。
しかし、確かに虫食いピーナッツを大事にするべきではなかった。体の中にむだはないようだが、親知らずはその体という設計図の中の未完成部分だったのかもしれない。
奥歯にものがはさまったような言い方、というような表現がある。今回の場合『奥歯が奥奥歯にはさまれた』状態だったので、それ以上の身体的心理的影響があったものと思われる。
親知らずを抜いたその夜に、以前から実態がわからないことで色々と思い悩んでいたことがあったのだが、それを関係者に聞きに言って事態を明らかにしようという欲求がわき、翌日さっさと会って来てしまった。
事態は動いており、ふ〜んなるほどなるほど、という展開ですっきりした。肩も軽いし、趣味で吹く尺八の音も良くなった(ような気がする)
節分をすぎ、旧暦では新年なのである。心身的に新しい展開をのぞむうごめきがあって親知らずを抜く、という決断にいたったということなのかもしれない。親知らずを抜くことで、革新の心理が働いたのかもしれない。両方かもしれない。
いずれにしても。ああ、新しいことが始まったのね、という手ごたえ十分な昨今なのである。