316話 プロジェクトX その2

作業の効率を上げようとしたら、パターン化すると楽である。上記の筋書きを読むと、これはテレビドラマのスクールウォーズのモデルにもなった「伏見工ラグビー部の巻」のパターンである。プロジェクトXでも「泣き虫先生のなんとか」というようなタイトルで番組化されている。

「今回の話は、伏見工業のパターンでいくで」と担当者が口にしたかどうかは知らないが、脳裏にはあったに違いない。(って決めつけちゃっていいんだろうか)

プロジェクトXは「起承転結」+「エンディングテーマで付け加えるしみじみまたは意外性エピソード」で構成されている。それを45分のなかにきっちりおさめなければいけない。

エピソードによっては、2時間あっても収まらないようなネタもあれば、本当は15分で終わっちゃうのよ、という題材もあるに違いない。しかし、毎回45分である。

劇団ピープルパープルの宇田代表のように「震災とレスキュー隊のことを芝居にしたいと、書きたいことを『オレンジ』の台本にしたら、小劇場の作品としては言語道断横断歩道の3時間になっちゃった。どないすんねんと言われてもできちゃったものはしかたがないから、うだうだいうな。3時間でやるんじゃい」というわけにはいかない。

45分にバランス良く収めるためには、事実を積み重ねるのではなく、想定された進行に収まりのいいエピソードを拾っていく、という作業にならざるを得ない。

主たる登場人物は4〜6人。最初から最後まで苦労する人1〜2名。主人公を応援する人1名。途中からかかわる人数名。なかなかうまく行かなかった状況を一気に好転させる役回りの人1名。好転役が男性の場合、テーマソングのバックに「救世主あらわる」とテロップをかぶせ、若い女性の場合は「女神降臨」と出す。

そういう「型」にはまる登場人物をざっとした取材の後に取捨選択するであろう。NHKの会議室で、応募した覚えのない登場人物(そのエピソードの関係者)の極秘採用会議が行われるであろう。

知らずに不採用にされた方が多数あるであろう。このエピソードで何で俺がまったく出てこないの、と密かに憤慨しておられる方があろう。また「なんであの人が主人公みたいになってんの。ほんまに貢献してたのは○○さんやで」といぶかしげな関係者の方もあろうかと思う。

それは、毎週1本制作。時間45分。という絶対に崩せない前提が、こういう歪みを生み出すのであろうと思われる。テレビは時間をきっちりとしないと成り立たない。ということは内田樹先生が、ブログで語られていた。内田先生がテレビに出演された経験で、番組スタッフがその内容よりも時間きっちりに収まるかどうか、ということを最重要課題として取り組んでいるのを見て、「つくり手が、内容よりも時間枠に収まるかどうかを重視してしまっている状況っておかしいんじゃないの」という鋭い指摘をされていた。

定刻通りに始まり、予定の内容を消化して定刻に終わることでテレビは成り立っている。あんまり中身が面白いので、ついつい放送時間を延長しちゃったら、CMを入れる時間がなくなっちゃった、というのでは広告収入をもらえない。テレビ局は成り立たない。

もう一つの要素が視聴率である。これも視聴率最低!ではスポンサーがつかない。スポンサーがつかなければ、テレビ局は死活問題である。NHKとて、誰も見ていない番組をつくっている、というのでは存続できない。民放との視聴率競争に一喜一憂していると見るのが順当であろう。「視聴率という数字=収益 & 時間きっちり」 という構図の中で生まれた「たいして悪くもない学校を悪い学校にしちゃった」という事件であろう。

別のエピソードを書こうとしていて、書いているうちに当初予定していなかった結論らしきものが出てきてしまった。出てきたらまた思い当たることが出てきた。

収益(数字)優先で、そのための時間きっちりが生んだかもしれないと思われる不幸な事故。尼崎の脱線も背景は同じかも知れない。