337話 雨空に思う適材適所

10時37分和歌山市駅発の特急サザンで道場へと向かう。列車から見る窓の外は雨である。まことにめでたいことである。先日までの「渇水」「日照り」「カラ梅雨」がウソのように、渇水地域に恵みの雨である。もちろん降り過ぎて大変だという地方も出ているとも聞く。被害を受けた方々には心からお見舞いを申し上げる。が、ダムがひからびてしまって、給水車に列をなし、みかんが木から落ちて、稲が立ち枯れるのとどちらがいいかと考えると、一部の方には大変お気の毒だが、圧倒的多数の方は「恵みの雨」と表現することに異は唱えまい。

ただし、この程度のしとしと雨降りのレベルでとどまってほしいと思う。昨年のこの時期は、新潟、福井、淡路島に豊岡や出石など怒濤の洪水波状攻撃であった。

洪水の復旧ボランティアに、S澤君と当時小学校6年生だった長男に啓生とともに、福井県今立町におもむいたのはこの時期であった。サラシャンティの清水さん、F田君、ホロンPBIの良子ちゃん、T久さんらと淡路島の洪水現場に出向いたのはもうちょっと後の時期である。

今立町では床下の泥石のかき出しで、小柄な長男が大活躍し、深長180センチを超える大柄なS澤君が、体を限界まで折り曲げて床下にもぐっていた様を思い出す。S澤君は頭脳明晰体力充実のかなり有名な某国立大学の学生で、ついでに合気道部員である。長男の啓生は、頭脳そこそこの地元公立小学校の生徒で野球部員である。

気温30度を超える被災地の灼熱の床下においては、学歴というのは何の役にも立たないことを、この現場で私は知った。ふだん脳天気に高温灼熱のグランドで、暑苦しいユニフォームに身を固め、おのれの楽しみのためだけにやっている野球で培われた耐熱能力が、これほどのものかと感心した。大人が次々にふらふらになる中で、彼がもっとも涼しい顔で、かつ、もっとも精力的に役立っていたのである。彼の身長の伸びの遅さ(彼は同年代の中では小柄である)が、床下にもぐるには最適であった。適材適所というのはこういうことか、と私は悟った。

今年はああいう大きな被害がないことを祈るばかりである。

それにしても今日は気分がいい。どう気分がいいかは、明日の日記で。