380話 胴上げを見のがす 2

電車の中では9回の表。ピッチャーのリリーフエース久保田がノーアウトから連続でヒットを打たれている。「うんうん、よしよし」である。あまりはやく片づけられたのでは、テレビに間に合わないではないか。

阪急の2階の改札を出る。階段を降りればそこはビッグマン前の広場。群がる群衆。とどろく雄叫び。怒号、歓声、歓喜・・・・なんてどこにもないじゃない。いつもよりも人気がないほどの閑散としたビッグマン前。


だって野球放送してないんだもの。

おいおい。もうずいぶん前になるけれど、俺は確かにこの大型テレビで、冬季オリンピックのジャンプ・日本団体金メダルの瞬間を見たぞ。

「原田ぁ〜、飛んだ〜!! 立て、立て、立ってくれ〜!!!」

の瞬間を見たぞ。そういえば大相撲なんかもやっていたぞ確か。

そういう「国民的高い関心事」の際には、ばしばしと放映するものだと思っていたけど、そうじゃなかったの?もしかして。民放はダメ?

あああああ。

しかし、ここは梅田だ。梅田と言えば「ヨドバシカメラ」。「ヨドバシカメラ」は電気屋さん。電気屋さんにはテレビがある。最近は液晶たらプラズマたら言って巨大画面で放映しているに違いない。

ということで地下街をどどどどっとヨドバシカメラへ。テレビの売場は3階。売場に殺到する会社帰りのサラリーマン。パソコンおたくの阪神ファンがテレビ売場を埋め尽くして、拍手喝采、万歳三唱、腕組み、肩組み、こぶしをふりあげ「あっと一人!」「ハァ あっと一人!」・・・・・・なんて誰もやっていないじゃないか。だって野球放送していないんだもの。なんで電気屋が放送してないんだよ。

っと「ほった〜るの ひいかああり」と閉店ソングが流れ出した。ええい、胴上げに間に合わない。映像がだめならせめて音声だけでも!!!!

ヨドバシカメラ一階外へ出る。ラジオを付ける・・・と、「放送席、放送席。勝利監督インタビューです」

っというわけで見事胴上げの瞬間を見逃した筆者だったのでした。大きい映像とか、喜びを分かち合おうなどど策を弄したのが間違い。最初から道場の隣の「昼はカレー屋さん、夜は西洋居酒屋。テレビはいつもスポーツチャンネル」に迷わず行けば良かったのだ。はたまた「西中島食堂」で「サンマ塩焼き、だしまき、ポテトサラダ、みそ汁と中めしにあと一品」あたりをとって、テレビの見える座席でぬるい茶をずるずるすすりながら粘れば100%胴上げは見れたのである。

シンプルにやろうとしていることをやればいいのだと悟った9月29日の筆者であった