381話 真相

タイガースの優勝して一夜明けた昨日、一面の見出しにひかれて帰り道で夕刊紙を買ってしまった。日刊G紙である。

「タイガース優勝の全真相」とある。

何てったって「真相」である。「えっ」っと思わせる見出しである。「優勝の裏に何があったというんだ」と連想してしまった。読んでみたら、予想にたがわず「真相」と呼べるような目新しい事実は何もなかった。

「真相なんてあるわけないやん」と予想しながら買う自分があほなのである。だいたい買ったのが「夕刊紙」である。タイガース報道に全社運を賭けている「デイリースポーツ」を筆頭とする関西系明けてもくれてもタイガースなどの「スポーツ紙」ではない。

それら各社は、一日中何人もの「虎バン」記者が選手・監督・練習・移動に張り付いて、鵜の目鷹の目で委細漏らさず情報収集している。勝っても負けても、シーズン中もシーズンオフも一年のうち300日以上はタイガースが一面トップだという「関西のスポーツ新聞」のタイガース取材陣の質と量に、ふだんは

「小泉独裁政権 実は庶民いじめのあほバカまぬけのお粗末改革」

というような一面トップの夕刊G紙が、スポーツ紙も知らない「真相」と呼んで恥ずかしくない一大事実をゲットしていた確率は限りなく小さかったのである。

さらによく考えると、プロ野球というのは、選手スタッフ裏方など100人を超える軍団が一リーグで6つあり、それら集団がしのぎを削って覇を競っている。総合力の戦いである。タイガースが優勝できたのは、タイガースだけに原因があるわけではない。タイガース以外がなぜ強くなかったか、ということも要素としてある。

要するに「優勝」という言葉と「真相」という言葉は、そもそも合っていないのである。真相というのは、あることがらに対して、世間が認知している事実とはまったく違う事実があった、という場合に使ってふさわしい言葉である。

「優勝する」というのは、6チームが140試合戦って、勝ち数・勝率ともに一番のところに与えられる称号である。タイガース以外が存在し、それぞれの勝敗があって初めて成り立つ事実である。したがって優勝の真相をタイガースのみに帰することはできないのである。唯一あるとすれば、全球団の全試合がしくまれた八百長であった、というのであれば、「真相」という表現を使ってもよろしい。


阪神の優勝は、プロ野球テコ入れのために仕組まれた壮大な八百長だった!!

ところがそれは不可能である。

その昔、星野仙一が中日の現役投手だった時の話だ。タイガースが最終戦、これに勝ったら優勝。負ければ巨人が優勝という試合で、星野がタイガース戦に先発したそうだ。そして巨人が嫌いで阪神が好きだった星野は、何とか阪神に勝たせようと、一生懸命打ちごろの球ばかりを投げた。ところが優勝がかかってがちがちになったタイガース選手は、ことごとく打ち損じて優勝を逸した。

これは「暴露話」でも「真相」でもなんでもなくて、星野仙一氏が、テレビでとうとうと語っていた話である。

つまり八百長で全試合を仕組もうとしても、そうそううまくはいかないということである。

タイガース優勝の「要素」「要因」を分析し、語ることはできても、日刊Gだけが知っている「優勝の真相」というものは、そもそも存在することは不可能であったのだ。

私バカよね〜 おバカさんよね

でも、よ〜く考えたら、そうわ分かっていてもついつい買ってしまう見出しを考える夕刊紙のセンスというのはすばらしいのだ。そうだ。うん、実に勉強になった、と考えるとこの120円は安い・・・かもしれない。