407話 覚悟 1
木曜日の昼間に尼崎の実家で整体をした日は、夕方からは道場での仕事となる。移動は駅まで歩いて15分弱、電車に乗ってしまえば20分から25分という距離である。
この木曜日は、いつもよりも人数が多く、移動に厳しい時間となったので、タクシーで駅まで行こうと思い、駅とは逆方向にあるバス通りに出た。
住宅地の生活道よりは交通量はあるが、幹線道路ではないので、ぎっしり走っているという道路ではない。しかしそこそこタクシーも走っている。
しかし、その日は「覚悟がいるぞ」という予感がしたのである。歩いていたのでは確実に電車一本10分遅れになる。それでは道場での予約時間に間に合わない。だからタクシーという選択は正しいのだけれども「何か、すぐにタクシーがつかまりそうもない」という予感がした。
そこで心に浮かんだことが
「まあ、車100台は覚悟してみよう、それだけ待ったら絶対に来るでしょう」
という思いであった。100台も待ったら、歩いて行った方が早いのだけれども、そういう理論的なものはまったく無視して、私の心中にはその思いがぽっかりと浮かんだのであるからしかたがない。
「い〜ちだい、に〜だい」
と数えて待つこと8分、累積走行車両数ジャスト50台目にタクシーは来た。
それは予感通り、8分ほどという待ち時間は「この道路でタクシー待ちをした際には、きわめてタクシー効率の悪い」部類である。
しかしながら、我が心はきわめて平静であり
「予定台数の半分で来たか、案外早かったわね」
というものであった。