421話 お礼の前払い

S澤君からのコメントを読んだ。画像も見た。


確かに猫にガムテープを貼ると、運動に制限がかかり、特定の運動しかできないようになっている様が確認された。筆者の脳細胞にその様がインプットされた。


この「猫テープ」の記憶は、筆者の無意識層の中で、筆者の過去の知識や体験と様々に組み合わされ、発酵・熟成作業が行われているであろう。そして数ヶ月か数年後に「皮膚または体表刺激による固有の運動の改善法」などという名前をつけて、人体の効果的かつユニークな調整法と形を変えて再び現世に現れることだろう。

しかし、その時筆者は、、すべては自分の苦心研究の結果と認識することはほぼ間違いない。私はなんと簡便で効果的な方法を編み出したのだろうと自画自賛しているに違いない。

その時には、その研究成果の重要なキーポイントになる「S澤君が重大なヒントになる『猫テープ』の画像を送ってくれたこと」はきれいさっぱり忘れていていることはまず間違いないと断言できる。

そして、

「ええ、僕がこの方法を思いついたのはまったくの偶然で、温泉に行ったら、サロンパスを貼ったおじいさんがいて、そのおじいさんが僕の前でふとよろけたんですね。その時です、皮膚の刺激と特定の運動に何か関連があるのではないか、とひらめいたんです」


とか


「ある日、めったに夢を見ない僕なのですが、歩いていたら突然「つきたてのお餅」が飛んできて、背中に貼りついた夢を見たんです。その時の夢がヒントになって」


などというコメントをするに違いない。そこにはS澤君の好意の記憶というのは、毛ほどもなく、気配もなく、みじんもなければかけらもないのである。


ということで、数年後に、身体調整の世界を震撼させる驚愕の新理論と技法が日の目を見た時の先払いということで、今のうちにあいさつをしておくことにする。

「S澤君、ありがとう。おかげさまでとてもすばらしい技術を確立することができました」

もう言ったからね。


これで数年後には安心してお礼を言うのを忘れていられるのである。