480話 99.9%は仮説 3

●地球の内部あんパン説


我が45年の人生を振り返ってみても、その昔「学習と科学」かなんかの付録か、図書館で読んだ子ども向け科学本では、(教科書だったかもしれないけど)地球の中は真っ赤に溶けたマグマで、地表は冷えて固まった部分という説明がしてあった。


バーベキュー経験豊富な今日の筆者の体験からするならば、その状況は『火のついた炭火をアルミホイルでくるんだごとき状態だ』というのが容易に想像ができる。


地球の内部は

「どろどろマグマのつゆだく、熱々の大盛り」

という構造だったとしたら、あっというまに地表は高温になり、海は巨大鍋と化し、太平洋も大西洋もありとあらゆる海洋生物の塩味の「ちり」「よせなべ」「ちゃんこ」となってしまい、地上においてはどこもかしこも「石焼きビビンバ」となることは断言できる。今なら。


しかし、筆者が小学生だったころの科学雑誌のライターもしくは科学本の執筆者は、そんなとんでもない説を純真な筆者向けに書いていた同じ手で、読み手である筆者に何の断りもなしに、手のひらを返したようにある日突然「地球の内部には核を中心にマントルが取り巻いており」などと書き換えたのである。


きっとバーベキューしたことがなかったんだ、みんな。


あと30年ぐらいたったら「地球の内部にはあんこが詰まっていて、より中心に近づくほど、こしあんの比率が高くなる」という「地球あんパン説」などに変わっているかもしれない。




●歯磨き史の変遷



筆者の人生45年の中で、常識の変遷が激しいと思われるものに「歯磨き」がある。


最初は、「とりあえずブラシを動かしゃいいんでしょ」という横ピストン往復であった。が


「それでは歯の隙間の汚れは取れまい」


と縦に動かすように指導された。で、素直に縦にうごかしていると


「回せ!」


と言われて、回転方向にスナップを利かせるようになった。のに


「それでは歯周ポケットの歯垢は取れない。細かく横に動かせ!」


というお達しが出た。


ざっと10年に一回は磨き方が変わっているようである。


次の10年後は

「歯ブラシを固定して顔を動かせ」


となっているかもしれない。


その次の10年後は


「歯ブラシは有害だ!つまようじを使いながら『し〜』と音を鳴らして歯垢を吹き飛ばせ」


となっているかもしれない。


もしかしたら、「磨きよりもすすぎが大事」


になっているかもしれないし、食べる前に磨いた方が、歯に食べ物のカスは付着しにくいと変わっているかもしれない。


最近の学生は知らないだろうが、筆者学生時代である30年ほど前は「運動中、断じて水を飲むべからず」が厳しい掟だったのである。


今は「かならずこまめに水分補給してください」に変わっている。気が狂いそうになりながら、水を我慢していた野球部員・陸上部員等々の「ひからびた水気のない青春」は何だったんだろうか。まったく何の意味もなかったのであるが、当時の顧問、部長、コーチの先生方から、元部員に謝罪が行われたという報道は聞いたことがない。


運動部必須だった「ウサギ跳び」は、今じゃ有害トレーニングに認定されている。しかし、星一徹が息子である星飛雄馬に「ごめんね」と言ったという「巨人の星」特別増刊も存在しない。(梶原一騎さんも故人だし)


しかし、もしかしたら、あと10年ぐらいたつと「やっぱり水分はいりまへん」に変わっているかもしれないし、「ウサギ跳びこそ最高のトレーニング」になっているかもしれないのが、こと体育・スポーツの現状であると筆者は理解している。


ということで、この本は筆者の頭をだいぶんと軟らかくしてくれたようである。なんだ、常識やら科学的っていうのも、そういや結構いい加減なんだ。

ずいぶんと頭や体を『常識という縄』で縛りつけていたんだということを実感。