485話 他人の荷物 2

昨日の続き。


このままでは会報が月内に出るか出ないかのぎりぎりのところで、突然能率が改善してなんとか間に合った七月号であった。


「締め切り効果」というものがあったのであろうけれど、その「どないすんねん」状況で、筆者は突然「もう一人の筆者」を仕事場に登場させるという訳の分からない方法を突発的に取ることで、劇的にやる気を喚起し、能率を上げ、翌日の印刷に間に合わせたのであった。


でれんでれんと仕事が進ますに困っているというのが筆者の実体であったのだけれど、困っている筆者には事態が収拾できないのである。今のままの自分ではらちがあかないので、その場で困っている自分はほっておいて、もう一人、その場に助っ人として現れた「一肌脱ぐ筆者」を登場させたのである。そしていままででれんでれんで怠けている筆者に問いかけたのであった。


「なかなか進まない状況ちゅうのは分かった。なんとかせんとあかんわなあ。手伝ってやるさかいに、どういう状況か教えてんか。全体としてはどんだけの仕事があって、どれぐらい残ってんねん」


まずは全体像をつかまないことには、一肌の脱ぎようがないので、力強く、かつ優しくそう尋ねたのであった。


そして、総ページ数と、それぞれのできあがり状況などを聞き取っていると、困っている筆者はだんだんと元気が出てきたようである。さらに、それぞれのページを仕上げるのに、おおむね何分ぐらいの時間がかかるのかを聞き取ったのであった。


それを紙に一覧にして、


「じゃあ、今から始めたら、夕方にはこれぐらいが出来上がってるんとちゃうん」


と確認すると、実際たいした量が残っているわけではないと分かった「困った筆者」はますます元気になったのであった。

その後、工程表を前に憤然とキーボードをパコパコ始めたのは、困っていた筆者か一肌筆者かは定かではないのだけれども、仕事さえはかどれば、そんなことどうでもいいのである。無事なんとかぎりぎりで出来上がったのは確かであった。


それっきり忘れていたけれども、内田老師の昨日掲載のあの一節で、なぜ間に合ったのかがよく分かった。


自分の仕事だと思っていたから重たいのであった。だからといって、今すぐ放り出す訳にはいかない。そこで、自分を他人にして、その他人である自分の荷物をかわりに担ぐという設定をした瞬間に、脳細胞の活動が変化したのである。


苦肉の策であったが、結果的に的を得ていたと言うことである、


ちなみに、今日午後から来客があり、我が家を隅々まで視察するという状況が想定されている。筆者仕事部屋は、資料やら試し刷りやらで足の踏み場もない状態であり、これを片づけるというミッションが筆者に課せられている。


そう、あの部屋は筆者の部屋ではない。片づけられないかわいそうなとある人の部屋である。彼に変わって今から片づけることにする。