531話 反省ザル的大きな便り 前編

ためさんと一緒に行った「笠岡〜鞆の浦 干拓地と龍馬の宿 弾丸ツアー」の帰りの車中での『おじさん的大合唱』以来、坂本九先生(もうすっかり参ってしまい先生づけとなったのである)の歌声が聞きたくて、「ダンスの練習用の曲を探しに行きた〜い」というあさちゃんと一緒にT屋にレンタルCDを探しに行く。

さいわい、坂本先生のCDは、ためさん持参のものと同じものがすぐに見つかる。一方あさちゃんは、なかなか「これ!」というのが見つからず試聴を繰り返している。・・・と、もよおしてきたので、店内のトイレに。

個室スペースは例えばコンビニなんかと比べると比べものにならないぐらい広々とした【和式】のトイレである。ドアの内側には「必ず鍵をかけて下さい」と書いたプレートがでかでかと貼り付けられている。

繰り返すがこのトイレは和式である。和式というのはドアに背を向けてしゃがむ構造である。そしてこの個室は非常に広い。


これが洋式で、しかも狭いということになると、このプレートは掲げられていないであろう。


つまりこういうことである。洋式トイレだと顔はドアの方を向く。したがって鍵を閉め忘れていても、目の前に鍵が見えるのですぐに締め直す。万一閉め忘れたとしても、通常トイレは内開きだからノックもしないでいきなりドアをあける失礼な輩がいたとしても、ぱっと手を伸ばせば空いてくるドアを止めることができる。したがって最悪の悲劇を未然に回避することができる。


しかし、この個室は和式でドアに背を向けており、またドアとの距離が不必要なまでに遠い。したがって礼儀にのっとってドアをノックする人があったとしても、リーチが常人の倍ぐらいあるオランウータンのような人でない限りは、振り向きざまにノックを返すということは不可能である。


したがって、ノックをしてかつ鍵がかかっていない場合は、ドアは完全に解放され、容易に室内に踏み込むことができる。気張っている人の方は突然の侵入者の気配になんとかしようと本能的に振り返ることだろう。すると侵入者と脱糞者はお見合いをすることになる。想像するだに恐ろしい光景である。後ろ姿を見られるだけならまだしも、お尻まるだしで顔までばれるというのは屈辱である。羞恥の極地である。


筆者が想像するに、このトイレの歴史の中で、幾たびもそのような悲劇が繰り返されたのであろう。しかし、お客さんで上記のような悲劇をいちいちレジカウンターに申告する人があるとは思われない。ぜ〜たいにない。


であれば、これはT屋のスタッフが絡んでいるとにらんである。つまり、T屋のスタッフが繰り返しお客様にお尻をむき出しでしゃがんでいる光景を披露するという経験を幾たびも重ね、またお尻むき出しのお客様を目撃するという加害者・被害者の双方の体験が集積されたに違いない。


そして、某日の店内スタッフ会議において、この重要事項が密かに話し合われ、結果

「鍵かけ励行」の注意書きをプレートにして貼り付けようということが悲劇・加害の経験者の強い懇願のもと決議されたに違いない。(つづく)