533話 満足度900000000点

チャングムが、皇后さまから東宮の暗殺を命じられ、またも(って毎週だぜ)窮地に陥った今週であった。さらにDrコトーが古志木島から出て行く星野さんを心の中で涙で見送り、波乱を呼びそうな新看護師・仲依ミナが登場したのが今週であった。しかし、和歌山市立F中学の今週は「職業訓練体験学習」の今週であった。


長男のひろきは、まさにその「職業訓練体験学習」真っ最中なのであった。


市内中心部である彼の通う中学校校区内には、大型ホテルからお城、幼稚園に保育園に書店に工務店に・・・などなどがあり、それらの事業所の中から少年少女を受け入れてくださるありがたい事業所・営業所・お店などなどで数名ずつ3日間を過ごすのである。


それらの受け入れ先の並んだリストから希望を出すのであるが、ひろは「そのほかの希望があったら書きんしゃい」というところに「気象台」と希望を書いたのである。ようするに受け入れ事業所リストには気象台は入っていなかったのであるが、学校が気象台にお願いして下さり、彼以外には気象台を志望するものはおらず、ただ一人で「職業体験 気象台班 班長兼メンバー」として和歌山地方気象台にと赴いたのである。


ずっと以前に書いたが、彼は気象マニアである。天気予報が趣味である。台風の時にテレビの台風情報で天気図を前にして解説する気象予報士の語る内容を元に、天気予報のたびに気象知識を積み重ね、今では彼に天気をたずねてから出かけるという我が家なのである。


中学生が職業体験をする制度は、いろいろな地方や県で行われているようで、筆者が前に住んでいた兵庫県伊丹市では「トライやるウィーク」と称して一週間にわたって実施されていた。


しかし、その対象はおおむね校区かその近辺に限られる。だって授業のかわりに毎日かようわけだから遠方には設定できない。


いかに職業体験先として気象台を希望・熱望・渇望・要望したとしても、校区内かその周辺に気象台がない限りは、その望みはかなえられるものではない。


全国に気象に興味のある中学二年生は決してひろだけではないであろうが、職業体験で実際に気象台に行けるという境遇の子供は、実にまれである。なんせ気象台なんてそんじょそこらにいっぱいある、というものではない。ゆえに希少台とも言われる(嘘)。ドコモショップなみに設置しても実益は少ない。


しかし、ここ和歌山市には和歌山地方気象台があるのである。それもごく近くにあるのである。ご近所と言ってもいい。我が家から徒歩6分、スキップ5分、ジョギングで4分、自転車で2分、信号無視をすれば自動車で一分という距離に、和歌山地方気象台はさん然と輝くのである。


さて派遣前の乏しい情報の中には「作業予定、芝刈り」などという情報があったので、彼は頭にタオルを巻いてカマを振るって草を刈る「ダッシュ村」の城島リーダーが頭に浮かんでいたようであるが、実際には彼にとって、至福とも言える3日間をすごしていたのである。(百葉箱周辺の芝刈りもあったんだけどね)


さて彼の三日間であるが、講義、作業、観測実習、などなど、時には1対1で、またある時には1対3で(先生の方が多い)さらには彼も参加しての観測結果が公式情報としてホームページにアップされ、さらに実際に天気予報をしてみるなど彼にとっては夢のような内容であった。さらにさらに昼休みにはキャッチボールまでしてもらって(ひろは現在野球部である)、いたれりつくせりの日々をすごしていたのである。


気象台職員のみなみなさまには、感謝の思いでいっぱいである。本当に息子がお世話になりました。ありがとうございました。


最終日には数百ページに渡る気象・地震・防災などの資料から気象大学の入学案内までを手にし、多数の職員のみなさまご臨席の上で、気象台・台長の角印の押された修了書までいただき、さらにはちょうど気象に関する内容の部分の教科書準拠の理科のワークブックのお土産までいただいて帰ってきた。


しかし、この「職業体験」の事前学習時に「いいかい、職業体験で知りえた派遣先の情報というのはみだりに人に話してはいけないのだよ。守秘義務というものがあるのだからね」と釘を刺されていた彼は初日は「守秘義務」を盾にして何がどう行われたのか、というのはあまり話してはくれなかった。しかし二日目になるとぞろぞろと話だし、3日間が終わると怒涛のように語るのであった。


3日が終了した今夜、ひろと王将に餃子を買いにいく車中で筆者はひろに尋ねた。


「予想していた満足度が100だとすると、実際に体験したら何点やと感じてんねん?」


「9億点!!(きゅうおくてん 900000000点!)」


やりたいことがある、見つかっている子どもというのは幸せである。(大人もだけど)