569話 狂乱の胃袋 イーターズハイ後編

【前回のあらすじ?】

酒の飲めない筆者である。ここまではお茶を飲みながらそれぞれの料理を楽しんでいたのだが、「たたき」まできてついに我慢できなくなった。ついに禁断の一言を口にしてしまった。


「すいません、白ごはん一つ」


より続く


生ビール、熱燗、泡盛などで楽しんでいた方々からはその瞬間「白い目」で見られた筆者であったが、筆者のDNAの中の倭人の血は、「うまいものにはお米」というソフトが組み込まれていて、それが起動してしまったのであるから仕方がない。


【美味いおかずとご飯】というのは、これはもうワンセット、敷き布団と掛け布団、ねじとねじ穴、男と女、表裏一体なのである。


筆者は、はふはふと「たたき」と「刺身」をおかずにごはんを楽しんだ。それを見て、酒飲みの中からもちらほらとご飯側に寝返るメンツが現れつつある。それはあたかも戦国末期、大阪夏の陣大阪城対決の終盤の大阪方のごとき状況であった。


ここまではどちらかというと、シャープな料理である。このあたりから豪快なボリュームの焼き物に突入である。


トップは名物の「もも焼き」である。歯ごたえのある脂っぽくない絶品のもも肉に、とろけかけのクリームチーズのようなものが乗っけてある。


一同これは何かと協議をしたが素人に分かるはずもない。店主・久子ママの解説によると


「これは、鶏の脂にゆずコショウをあえたものでございます(って何でしゃべり方がチャングムなんだよ)」


豚の脂はラードと知られているが、鶏にこんなに美味い脂があるなんて知らなかった。


ここで、M本氏がその脂を一箸すくってご飯に乗せた。9名の目がそのご飯に吸い寄せられた。白米の上にとろける絶品鶏脂ゆずこしょう。そこへ数滴のたまり醤油がたらされた。


M本氏以外の8名がいっせいに「ごくり」とのどを鳴らした(ような気がした)


ためさんが、S澤君が、体調が悪いはずのインスパイア大澤さんが一斉に


「ごはん下さい」


と厨房へ叫んだ。


ためさんは、ステーキ皿に残った脂にごはんをあけ、箸を逆さまにするとフランス料理界の巨匠もいかばかりかという雰囲気でたんねんにほぐし広げ脂をまぶし、見事に照り輝く「鶏あぶらライス」をつくって近隣の方々に提供し始めた。


とっても美味しい料理なので、お酒類も相変わらず注文された。しかしその酒飲みたちもご飯を肴に飲んでいるのである。過去私の知っている酒飲みたちは、決してこういう飲み方はしなかった。不思議な光景である。どんぶり飯で生ビールや泡盛をぐいぐいやっているのである。


絶品料理の登場から内容、参加者各自のリアクションなどを一品ずつ解説していたのではとても時間が足りない。その後も「ジャングル焼き」「アボガド白身」「もろみと豆腐の合わせ発酵チーズ状の味噌をセロリにあえたやつ(名前忘れた)出汁巻きにおでんに、超絶チキンのスープ・・・・


一品でてくるたびに追加のご飯の注文がなされた。


筆者、この異常な白米の注文状況に、思わずカウンター内に声をかけた


「すいません、ちなみに今ごはん何杯目ですか?」


カウンター内のバイトとお兄ちゃんから「11杯です」と即答が返ってきた。あまりにも即答であった。間髪を入れずとはこのことであった。お兄ちゃんも、この異常などんぶり飯の消費速度に感嘆し、その状況を熟知していたということが図らずも暴露された。


筆者の記憶では、さらに「ご飯二つ」の注文を二回は聞いたと思う。おそらくは推定最低15杯のどんぶり飯である。


そこでついにその日その時間帯に用意された鳥久の白ご飯(途中追加で炊いてもらっていたようなのであるが)を全て食べ尽くしたと久子店長から告げられた。パチンコであれば予定終了である。


なんと、シロアリか異常繁殖イナゴの大群のような食欲である。


別に相撲部の合宿の話ではない。普通に健康道場に通う一般の社会人の方々である。鳥久の料理かいかに美味しかったかを物語るものであろう。


とにかく登場する全ての料理のスープ、脂、だしなどはことごとくご飯に振りかけられた。


最初から盛り上がったと言えば盛り上がったが、やはり転機になったのはM本氏による「鶏脂ライス 創作料理の開始」あたりからであろう。あのあたりで、参加者の脳内の回線のどこかがショートしたのが開通したのかはわかならいが、愉快、爽快、恍惚、美味美味のオーラにテーブル周辺は支配されたようである。

k賀氏曰く「みんな脳のどこかが壊れている〜!」状態であった。


ランナーズハイ、という言葉がある。長距離ランナーがある距離まで走ると、とてつもない恍惚感に包まれ、疲労感は消失し、いつまでも走っていたいわ状態になる、というやつである。


いうなればイーターズハイであった。とてつもない恍惚感に包まれ、満腹感は消失し「いつまでもたべていたいわ」状態になってしまった。ということで一同、死ぬほどたべたのに、ほとんど胃に持たれていない状態で(食材がいいとこういうふうになるようである)、食後はメニュー片手に「次回来たときには、今回食べ損ねたものの何を食し、また今回のスターティングメンバー(今回注文の料理のこと)とどう組み合わせるかという企画会議が行われ、次回は「串焼き」「唐揚げ」「皮の塩焼き」などをスターティングメンバーとして採用することが衆議一致された。


そして、会計を済ませて、食後のお茶と、サービスで出して頂いた柿とアイスクリームを食べながら(ってまだ食えるのが不思議だ)、参加者紹介がまだ4人しか終わっていなかったことに気づいたのであった。


残り4人のメンバーを紹介したのであった。つまりメンバー紹介8人分に費やす5分ほどの時間以外は、2時間弱ず〜っと食い続け「うまいうまい」をひたすら連発したのである。


会員のみなさまに申し上げます。今後も、会食にふさわしい名目が立ち、筆者の都合が合う場合は、即座に「鳥久で地頭鶏を食う会」が開催される予定なので、開催を予告する道場の掲示板を常にチェックされ、まためでたごとは早めに申告して下さい。


ちなみに鳥久のテーブル席のキャパシティはおよそ11名で限界、血を吐く思いで12名ということが判明した。このキャパシティは変えようがないので、そういう食事会の際、私以外は常に先着順になることを心得ておいて頂きたい。