582話 「当て馬」 前編

当て馬の正しい語源を筆者に教えてくれたのは、関西が誇る芸能人というか、(裏)文化人というか、野人というか、傍若無人というか、一応は「歌手」の「やしきたかじん」翁である。


やしきたかじんと聞いた瞬間に、関西人であれば、瞬時にその話のグレード・品格を理解するであろう。


日本経済新聞社が選ぶ、話のグレード・品格ランキング五段階評価というものがあるとすると(ないよ、そんなの)、最上位の5が「司馬遼太郎」「野口晴哉先生」などであろう。ややユーモア度や身近度やラフ度やくだけ度が入ってくる内田樹老師は、この際涙を飲んで「評価 4」となる。最下位の1というの「男だけで飲んで騒いでエロ話」の程度であるとランキングの基準が設定されたとすると、やしきたかじんトークというのは1か2というランクの話であることは関西人にとっては明白である。自明の理である。当然の結末である。


日曜日のお昼という時間帯の読売テレビそこまで言って委員会」では、読売テレビ論説委員かなにかの「しんぼう次郎」氏ががんばって、社会的問題、時事問題などにフィールドをまとめようとされているので、かろうじて2のランクである。


しかし、この「あてうま」の真意を耳にしたのは、午前0時を回る時間帯のMBSの番組であった。品格評価はダントツでランキング1である。(MBS関係者の皆様、お怒りにならないで。だってその飾りのなさの魅力で筆者はわりと観ているのですから)


話題は、競馬のディープインパクトが、海外のレースに出たとか出るとか言ったあのころで、早々に引退することが決まった、という話題であった。


この私にとっては何の関係も興味もない話題に、やしきたかじんさんはかくのごとく解説をした。


勝つか負けるか分からないレースに出て、今後負け続けて価値を落とすよりも、めちゃめちゃ強いで〜!という今の戦績で引退し、長期間・種付け馬として活動した方が儲かるからだ、というのがその解説であった。


種付けというのは、一回いくらという世界のようで、おそらくはうまく受胎するとかしないとかは関係なく、生まれた馬が強かった、弱かったなどは関係ない。露骨に言えば「一回やれば一回分確実に儲かる」というシステムのようである。


勝てば賞金、負ければなし!というレースの世界よりも、乗れば(って雌馬に)乗るほどお宝ほいほいという、あたかも人類の歴史の「狩猟・採取という成果に対する不確定要素が非常に多く含まれる段階」から、一気に産業革命後のごとく「工業生産」という確実に利益の計算できる段階へと移行するということらしい。


ふ〜ん、そうなの。


さて、そうなると、ディープ君というのは、いわば「子だね」を打つ注射器のようなものである。


元気で長生きして、せっせと注射することにより、子だねマシーンと化したディープ君に莫大な資本を投下したお金持ちたちの懐を潤わすのである。