583話 「当て馬」中編

『注射的行為』一回分の値段というのも、株のように上下するものではないかと思われる。ディープ君以上の種馬ライバルがぞろぞろ登場したあかつきには、やはり値は下がる、もしくは上がらないという事態は予想される。


すると必然的に「高く売れる間に、せっせと注射行為にはげまんかい!」


ということになる。


「働きづめに働いたのであるから、ここらでフルムーン旅行に、トワイライトエキスプレスで日本海の夕日を見ながら、フランス料理を食って、北海道でジンギスカン食って、ほっけ食って、時計台の下で待ち合わせしたい!」

と言っても却下される。(たぶん)


やはり

「高く売れる間に、せっせと注射行為にはげまんかい!」


ということになってしまう。「そこ」にだけ価値を見いだされるのって、ご本人(ご本馬)にとってはかなりつらい状況ではないかと思われる。


やはり馬だって「その手の行為」の「もろ、その行為」に至るまでに段階的に高まっていくステップがあってこその喜びではないかと思うのである。(直接聞いたわけじゃないけど)


チャングムだってミンジョンホと結ばれるまで、50回ぐらいの放送回数をかけているからいいのである。会った瞬間に合体というようなお手軽なコンセントのようなものであれば、恋愛ドラマや恋愛映画に名作は生まれない。


もろにそういう行為のみを扱った大人用のビデオであっても(う、話が脱線していく)その行為だけ見せつけられても楽しくないのである。そこに至る背景が必要である。そこでタイトルに視聴者の「ただれた空想」を喚起するようなキーワードをちりばめることによって背景を連想させることで購買意欲を喚起するのである(って決めつけちゃったけど)


しかし、視聴者の妄想の範囲は多種多様なので、「制服」とか「ナース」とか「スッチー」とか「義母」とか「ロリータ」とか「家庭教師」とか「新任教師」とか「熟女」などのジャンルを特定する多様なキーワードに、「淫乱」とか「痴女」とか「欲情」「したたり」などなどの様々な「理性を破壊するキーワード」を冠することによって購買希望者の金銭感覚を麻痺させて、購入へといざなうのであろう。(ちなみにこれらは筆者の指向性を開陳したものではなく、冷静かつ客観的な社会学的洞察であるから誤解しないように)


妄想の世界でさえ、かようなステップを必要とするのであるから、お馬さんにとったって保健室で順番に予防接種する校医の先生のような行為に、何の生き甲斐があるのよ、ということが言いたい。


保健室の予防接種のように効率的に「その行為」をさせるためには、受け入れ先である雌馬に十分にその気になってもらわないといけない。一回の注射がディープ君の場合何百万円かそれ以上かは知らないけれども、

「あっ、外れちゃった、こぼれちゃった」

ということになると、おそらくはサラリーマンの年収のような金額がその瞬間に消えるのである。失敗は許されないし、あらゆる方法で「性交の成功の可能性」を高めなければならない。リスクを軽減するためには、受け入れ側の状況を少しでも「それにふさわしい」状態にする必要がある。


ようするに雌馬に思う存分その気にさせておく、という準備が必要である。

(続く)