584話 「当て馬」完結編
ようするに雌馬に思う存分その気にさせておく、という準備が必要である。
ようやく表題である「当て馬」の登場である。
ようするに「ディープ君」ないしは「種馬」たちが登場するまでに「雌馬をその気にさせるためだけの馬」というのが「当て馬」なのである。
発情仕掛け人(仕掛け馬)である。社会学的に分析するならば、種馬でさえその行為というかお仕事は、非常につまらないというか、なかなか哀しい仕事である、という分析は前回までに行った。しかし、その露払い役である「当て馬」となると、その悲劇性というものは、さらに想像を絶する厳しさである。
そもそもも本人が「俺の手にかかれば発情しない女はいないぜ」というプロの誇りとともに、仕事として自覚してやるならば、それはそれで「それもありかな」と思わないでもない。広い世の中であるから、そういうニーズも人間界にあり、「当て馬」のようなことを職業としてされている男性もいるやもしれぬ。
しかし、当て馬たちにはそういうプロ意識はないと思われる。
もともとその気があるわけではないであろうが、そのあたりは人間の「種付けのプロ」たちによって、どういう方法かは想像もつかないけれども、先に発情させられてしまうのであろう。
そして、雌馬にアタックにアタックを重ねること数十分(って何分かかるか知らないけれど)ようやくお互いに
「うッフーン」
「はぁはぁ ゼイゼイ」
「ムラムラムラ」
という状況になって
「よっしゃ〜!突撃じゃ〜」
という「まさしくこれから」という瞬間に、調教師によって
「はいはい、ご苦労さん」
ということで雌馬から引き離されてしまうのである。
ううう、なんて哀しいんだろう。なんという拷問だろう。
以上が「当て馬」という言葉の語源である。そういうとってもエロチックな、かつ悲哀に満ちた、見方を変えれば非人道的な、動物虐待的な言葉が「当て馬」である。
ニュース23あたりで膳場貴子アナが、政治報道などで
「この派閥の総裁候補は当て馬ですね。実際は派閥の中で代表を出すかどうか、もめているようです」
なんて澄ました顔で、決して口にしてはいけないほどの恐ろしい言葉なのであった。くどいようだが、その本来の意味で書いてみれば
「この派閥の総裁候補は、種付け前の雌馬を発情させるために色々と雌馬にエッチなことをしかける係りの馬のようですね」
という意味になるからである。
知らないということは恐ろしいことだ。
それとも、世間のみなさんは意味を知った上で、平気で使われているのだろうか。謎である。