587話 N山さんの超・安産 その3

果たして、一気に来た。ほんとうに、ほんとうに一気に来たのであった。まだまだだと言うドクター(だか助産婦さんのコメント)よりも、ご本人の感覚の方がはるかに正しく、ベイビーはきっちり降りてきていたのであった。


ぐぐぐぐぐ、っという痛みをともなった圧迫感。


「あ、でもホントに痛みが増さない方に行っているような、あっ、あっ、ぐぐっと来ているわ」

と、お出まし感覚の訪れに、下半身に目をやると、あれ「頭の一部が見えてるわ」

状態であったらしい。

そして、快氣法出産の経験談に照らし合わせれば、赤ちゃんが出てくる独特な「力感(りきかん)」をここちよさに転換して伸びをすると、そこに宇宙との一体化とも称される至福感覚が待っている・・・と思ったかどうかは知らないが、(未確認)それでも痛みに身を固くする方ではなく、リラックスする方向、楽な姿勢などには意識が向いたのは確かである。(確認済み)

すると、次の瞬間にはもう

にゅるっ!

つるん!

すぽん!

と、出ちゃったのである。


「お、お、お、おめでとうございます。元気な女の子なのでございます(ってまたまたチャングム風なのでございます)」


あまりの早技に某巨大病院産婦人科スタッフ一同、直立不動、襟を正して、国歌斉唱、国旗掲揚、最敬礼であったそうだ(嘘)

会陰切開不要(そんなヒマも必要もなかった)
局部の消毒不要(まったくどこも切れていない)

某巨大病院スタッフ一同

「こんなお産、みたことない。理想的だわ〜」

かくして、N山さん、出産時の至福感覚との出会いには失敗したが、通常は陸上競技で言えば1万メートルとか20キロロードレース、人によってはマラソン競歩競技を越える時間を過ごす分娩台で、ものの数十秒という400メートル走なみの安産記録を樹立したのであった。


これもまた、お産の一つの理想でもあると思われるのである。至福体験もけっこうだし、「さらっと出産」もまたすばらしいのではないか。


さらに、付録の話である。今回は今までよりも2日間も余分に入院したのにもかかわらず、過去の2回のお産よりも費用も安かったということなのであった。これもまたいいことづくめなのである。そりゃあそうでしょ。医療処置というのは破水させた部分だけで、他には介助も処置も何も受けていないんだから、医療費が発生する部分がなかったんじゃないですか。