602話 ああ 偉大なり 炭酸せんべい 2
一昨日、まいちんはサンタクロースは実在しないということに気づくまで小知恵が働くようになった。
しかし、彼女が幼稚園のころは、もっと純真だった(だまくらかしやすかったとも言う)
4〜5年前、まいちんも参加して、親子で六甲最高峰を踏破して有馬に下った。(先日のブログに書いた通り)
有馬の街はどこもかしこも炭酸せんべい屋だらけである。
そして、生産直売の店では、店さきに「割れせんべい」「はみだしせんべい」が大袋に格安で売られている。
自分たち家族で食うには、見てくれはどうでもいいので、それを買い求めた。
まいちんが尋ねる。
「お父さんそれは何?」
「これはね炭酸せんべいって言うんだよ」
「美味しいの?」
「あのね、炭酸っていうのはね、コーラに入っている辛い泡のことだよ」
「うん、知っている、辛〜い。まい、飲まれへん」
「そうだよ。炭酸煎餅っていうのはね、口の中でつばと混じると辛〜い泡が吹き出る恐ろしいせんべいなんだよ。いっぺんにたくさん口の中に入れると、鼻の穴や耳の穴からも泡が吹き出るぐらい強力なんだよ。」
「ええええ」
恐怖におののくまいちんであった。
「だから大人しか食べちゃだめなんだよ」
ちなみに、この大嘘は、ひろき兄(にい)や、あさな姉(ねえ)が、ぼりぼり食べても平気なのを見て、数分後にはばれた。
思い出深き炭酸煎餅。
ゆえに筆者は有馬へ行った際には、炭酸煎餅を買い求めずして帰ることは生理的に受け付けないのである。先日も太閤の湯の送迎バスで神戸電鉄有馬温泉駅に着いた時点で、炭酸煎餅を買い忘れていることに気づいた。電車は発車3分前であった。
筆者は駅前の【炭酸煎餅本舗 M】に飛び込んだ。
店番のご婦人の会計および包装の動作は、筆者が期待する速さの三分の一であった。普通駅の方をちらちら見ながら、16ビートのリズムで足踏みする、出走ゲートの中のディープインパクトのようなお客さんを見れば、電車の発車時刻を気にしていると分かりそうなものだが、その店員さんは、能舞台のごとき荘厳なゆっくりした動作を変えなかった。
もしかしたら、この店員さんは勘が鈍いのではなく、老獪、老練、手練手管の持ち主だったやもしれぬ。わざと電車に遅れさせて再びの来店を画策していたのかもしれぬ。
しかし、改札までダッシュして、しかしすでに発車していた赤いランプの終列車を(嘘、15分後に次のがある)を見送った筆者とひろきは、老獪おばばが妖気を漂わせながら待ちかまえるMには向かわず、女子学生バイトが二人、サンタクロースの格好をして、声を枯らしてクリスマスケーキの店頭販売をしているローソンの方へ迷わず向かったのであった。
見たか、老獪おばばよ。これが紀州人の心意気だい!って訳わからんね。
また炭酸せんべいの思い出が増えた12月25日だったのである。めでたし、めでたし。