609話 こいつは春から縁起がいいわい 前編

この正月休みは連日、朝はすずなを連れて和歌山城に散歩に行っている。


自宅を出て3分、すずなは、散髪屋のN階さんが運良く表で片づけなどをされていると、大喜びで「うれしょん」し、店の中に入れてもらってビスケットの一かけらをもらって、ひとしきり遊んでもらうのを日課としている。つづいて徒歩4分の汀公園へ。ここで小便をもう一度しっかりと出した後、和歌山城へ。


勘定門から入って、砂の丸広場の横から鶴の渓へ入る。紅葉谷の青石の石垣のしっとり砂利道あたりまでで、だいたいうんちをする。そこで中御門横の「わんちゃん用のうんちゴミ箱」にうんちを捨て、引き返し二の丸庭園へ。

庭園前の自動販売機でコーヒーのホットなどを購入し、庭園のあずまやへ。ここでコーヒーで一服したのち、尺八を取り出し、「小柳ゆき、 あなたのキスを数えましょう」「ハイファイセット 冷たい雨」「大滝詠一 君は天然色」の3曲を練習する。上記の3曲はだいたい指がついていくようになったので、最近はここに「チャルダッシュ」が加わった。


チャルダッシュ」というのは、ファギュアスケートの日本選手権のフリーで浅田真央が使っていた曲で、バイオリンの静かな旋律とけたたましい旋律が交互に出てくる。このアップテンポの部分が難曲で、とうてい尺八では無理だと思っていたが、一年ぐらい毎日吹けばなんとかなるかもしれない、ということで練習曲リスト入りしたのであった。


このあずまやは、なぜか朝の散歩のおじさんのたまり場のようである。そしてそのおじさんたちは皆そろいもそろって競輪ファンらしい。


「あの三番の○○が」「××というめちゃくちゃ速いやつがおったやろ」「外側からのまくりが」などと筆者には意味不明の会話で盛り上がってるところで、横でぴーひゃらやっているのである。


そして、二日に一回ぐらい、二の丸庭園の中央の芝生広場には「謎の古武術ギャル」がやってくる。


背中に棒が入った袋を背負い、自転車に乗ってやってくる古武術ギャルは、まずはすり足など歩法を練習した後、長い棒を取り出し、型を練習する。


二の丸庭園の広場では和の伝統古武術。あずまやでは和の伝統楽器(ただし選曲はまったく伝統的ではない)の共演である。こちらは「謎の古武術ギャル」などと勝手に呼んでいるが、尺八の音色で歌謡曲を吹いているこちらの方がよほど「謎の尺八のおっさん」かもしれない。(つづく 何が春から縁起がいいのかの謎は明日明かされるのである)