616話 ベッドと机と肥後乃守 1

娘たちの部屋にはベッドが鎮座されたのであるが、じゃあひろ兄の部屋は、どうかというとベッドはない。


「ベッドほしいか」と聞いても

「別に・・・」

としか答えられないような巧妙な仕掛けがそこには隠されている(ってわざとじゃなくって偶然で、たった今気づいたんだけど)


彼は兄弟唯一の男性であるから、できるだけ一部屋を与えた方がいいであろう、という見解から個人の部屋を与えられた。しかし、決して床面積に余裕のある構造ではないので、すこぶる横幅のない廊下のような構造の部屋しか確保できなかった。


その廊下のような部屋の突き当たりに勉強机を置いているが、言い換えると、突き当たりにしか勉強机を置けないという構造であるとも言える。

もし仮に、我が家に床面積とお金がふんだんにあり

【 ベッド 】

カラーボックス

というようなレイアウトが可能な部屋であったら、彼は喜んで

「うん、ベッドがほしい」

と言ったであろう。

しかし、現実は

................................................................................................................|
    カラーボックス          
机              |
...........................................................................................................引き戸

というような構造である。


この部屋にベッドを置くとすると、カラーボックスの前あたりしかない。


すると、ただでさえ狭い横幅がカラーボックスで狭くなっているところにベッドであるから、部屋の中央部はベッドで完全にふさがれてしまうであろう。


すると、引き戸を開けて入室した彼が、学習机の方に行くためには、いちいちベッドを乗り越えて行かなければならないということになる。


廊下にベッドを置きたい人はまずいないであろう。


彼の部屋に友達が二人遊びに来たとする。


彼が学習机に座り、友人Aはベッドに座り、友人Bは引き戸の前に座る、というようなレイアウトになる。誰もこういう独房が並んだ刑務所のような部屋にしたいとは思わないであろう。


かくして彼がまともに計算のできる人間であるならば(ってまともに計算のできる人間である)


「ベッドほしい?」


の質問に「イエス」とは答えられないようになっているのである。


そして、彼はベッドがほしいというかわりに、ある行動に出た。(つづく)