718話 全身全霊と口にするけれど

朝の阪急電車でよく一緒になる視覚障害の方がいる。仮にAさんと表現しておく。


白い杖であることと、お顔の感じから全盲であることはほぼ間違いない。


乗車駅も下車駅も同じようであるが、不自由そうな感じがないので、声をかけたことはない。


少なくとも進路妨害はしないように気を付けて、その日もドア際にいたその方の前をふさがないようにと気を付けながら、京都方面乗り場へとなぜか不自然に長い十三駅の地下通路を移動。急ぎ足ではなかったが、決して極端に遅い歩みではなかった。


とっとと、階段を下りるふくらはぎのあたりに、後から何か傘の先でも触れた感触があって、振り返ると、そのAさんの杖であった。


なんと、筆者より早く移動されているのである。


道を空け、結果的に後をついていくと、のぼりの階段ではすでに上に電車が来ている気配を感じられたのか、小走りと言っていいような移動速度である。


止まっていたのは特急だったので、ホームで各駅か準急を待つAさん。


整体をする時と同じように体をスキャンしてみた。


わっ、偏っていない!


今、大半の方のスキャン結果としては、目や視覚情報処理関連の部分の強いコリと、閉じた胸、抜けた腰の組み合わせの方がほとんどである。


一部分のみを過剰に使って凝り固まって、大事なところの力が抜けている。


Aさんも、おそらく細かく調べれば不都合な部分や疲れている部分はあるだろう。しかし、全体をスキャンした限りでは偏っていないのである。フルに使われている。その結果、とてもすばらしいバランスを生み出しているのである。


確かに視覚情報に関しては、ハンディはあるかもしれない。しかし『今』『ここ』を感じている度合い、そのために使っている五感などは、視力を持つものの一桁上の世界を感じているのだと推察される。


全身全霊でとか一所懸命とかよく口にしているけれど、ただの偏った力みかえりでしかないのかもしれない。