739話 唐揚げにおける小麦粉の研究
今日は和歌山。
自宅でこまごまと用事をしていると、ベランダのすずながやたら吠えていたと思ったらチャイムが鳴る。
いつもすずなをかわいがってくれる散髪屋のN階さんの奥さんである。
「昨日の夜にお父さんが釣ってきたよって、食べて」
と袋一杯の「鰺」。おお、月曜日がお休みの理髪店なので、いつものように日曜日の夜から釣りに出かけられたことと見える。
なんと、新鮮!
いつもは塩焼きにするのであるが、今日は唐揚げに挑戦。
まずは包丁を研ぎ、ついで鰺を掃除する。
20数年前、魚料理を食べさせるお店でバイトしていたのだが、どの料理もとってもうまい店だったが、唐揚げは特にうまかった。秘訣は、お店オリジナルのポン酢であった。
そこで市販のそこそこいいポン酢にさらにカツオだしと昆布だしとたまり醤油を加えて煮て、濃厚な「昔のバイト先風のポン酢」を作る。これは成功。
12匹の鰺を次々に揚げる。
まずは3匹。(鍋にそれしか入らないんでね)
成功。うまい。ポン酢との相性もいい。机の上に置いたら、ひろとまいちんがまたたくまに半身を食べてしまう。
次の3匹。
最初の一匹に火を通しやすいような切り目を入れるのを忘れる。
次の3匹。
「切り目、切り目」と切り目を忘れちゃいけないとばっかり思っていたら、切り目をつけるなり、油に放り込んでしまった。薄く小麦粉をまぶすことを忘れていたのであった。
この第3チームの三匹の鰺たちは、鰺は油の中でどんどん煮くずれ(揚げくずれ)していき、ひっくり返すと皮はむけ、身は剥がれる。実に無惨な「鰺の残骸」のようになってしまった。
身がどんどん崩れていくので、あまり長く揚げることができず、結果的に「骨までこんがり、頭からしっぽまで全部食べられまっせ」状態まで揚げることができなかった。
申し訳ない。「チーム唐揚げ・第3班」の鰺諸君。
なるほどねえ。天ぷらのころもと違い、唐揚げっていうのは、軽く粉はまぶすものの、手ではたいて余分な粉を落とす程度にしかまぶさないから、一体なんのための粉なんだと思っていたが、こんなにも大事なものだったのね。
おそらく、魚からしみ出る水分で溶かした小麦粉となり、それが油の熱で固まって、表面を覆う膜ができるのであろう。小麦粉が溶けすぎないように、ふきんで魚の余分の水分を取るのも、膜の質をちょうど良いものにするための適度な水分量にするためだったのだ。その小麦粉の膜によって魚の皮は保護され、全体がシールドで守られて身もはじけないという仕組みだったのだ。
何気なくはたいていた小麦粉だったのだが、今回ははたくのを忘れたお陰で、小麦粉の役目というものを目の当たりに理解した筆者であった。
おそるべし、小麦粉!いい仕事してますねえ。