769話 宿題

Y木くんから、分厚い封書が届く。切手200円分だからけっこう重い。


「これは『マイケル・チェーホフ』という巨匠『アントン・チェーホフの甥っ子』が書いた『演技者』というテキストなんだけんね。『スタスタ何たらスキー』(う、覚えられない)の演劇訓練メソッドの継承者の一人であるんだけども、きっと君の専門分野にかぶっているから、役者がそのメソッドの本意を体感できるように、具体的な実践方法を考えといてね。

言っとくけど、この資料で取り上げられてる概念でやってる役者ってのは、ほとんどいないみたいだから、誰か他の人の書いたのとか参考にしようと思ってもないよ、

 じゃ、よろしく!」


という意味のことが、理路整然とていねいに丁重に書き記された添え書きが添付されていた。


ガラスの動物園を原案にした「追憶ノ青いバラ」公演に向けての役者の訓練のいっちょかみの次なる課題である。


しかし、こうやって宿題を出されるというのも楽しいものである。


学校時代の宿題ならびにテストというものは、いくらがんばっても100点以上はない。



しかし、今回の場合、失敗して不評を買い、役者を再起不能の混乱におとしめる可能性もある(単に確率の話ね。実際は途中で「どあほ、役者をつぶす気か、撤退しろ!」となるからそうはならない)が、新しい切り口と手法で、めいっぱい花開いて、かかわるみなさん、それぞれとってもハッピー、満足度累計500点!ということだってありうる。


さらに、学生時代の出題者・成績評価者(先生のことね)とこちらは、基本的に敵対関係にある。だってこちら側の最高100点の持ち点から減点していくしかけを作るのが先生でしょ。


ところが、Y木氏は、宿題を出すけれども、それは公演のためであって、そういう意味では共通目標・一蓮托生・共生・共存共栄関係にある。応援・支援をすることはあっても、足を引っ張ることはない。


ほいっとテキストが届いて、「後よろしく!」ということではあるが、こちらに何のどの部分を期待しているのかが明確であるために、がんばり甲斐がある。信頼のあかしであると受け取ることもできる。


テキストをぱらぱらと読む。


ほほう、ほう、ほう。


なかなかに、これは取り組み甲斐のある中身である。かなりいいメソッドが紹介されているように思う。対象は思いっきりかぶっている。


へえ、海外にもいいものがあるんだと、感心する筆者であった。(筆者の頭の中は、未だに鎖国状態のため、ほとんど海外のメソッドは勉強の対象になっていない)


しかし、人間の体の自然性に着目してメソッドを考えれば、そうそう違ったものにはならないということかもしれない。演劇のフィールドでの心身の開発、コントロール、訓練の先達との出会いに、闘志を燃やす筆者であった。