782話 ブンブンブン 蜂が飛ぶ

朝のヨガのクラスが終わって、午後の身体調整の稽古会までの間に整体の方が3名。


O谷さんに手当をしていると、クーラーをできるだけかけない方針の道場の、大きく開け放した窓から、ハエが一匹ぶんぶん、と見る間に3匹に。


くみ取り便所も野ツボも絶滅した大阪市淀川区で、ハエを複数見るなんてのはめずらしいなあ、と思っていたら、さらに一匹。

へっ?


げげっ! ハエじゃないど。蜂(やや小型だけど)やど。


大騒ぎして刺されるのも嫌だし、無益な殺生も嫌なので、できるだけそっと窓から外に出そうと窓の外を見たら、そこには大量の蜂が雲のように舞っていた。


さらに窓からどんどん入ってくる。


急いで窓をしめて、道場に残っていた人には廊下側に出てもらって、やむなく殺虫剤を買いに行く。


あまり薬剤を撒きたくなかったので、「氷殺 ジェット」とかいう、瞬間冷凍するのがうたい文句のスプレーを買って帰ると、廊下に出てもらっているはずの方々がいない。


中に入るとY村のおばあちゃんが、古新聞片手に道場にいた10数匹の蜂の最後の一匹を狙っているところだった。


あの〜、肩から腕から脇から腰から脚まで、痛い、しびれる、動かせない、ちょいと無理したら激痛って言ってなかったっけ。


室内の蜂にはそれでけりがついたのであるが、外に出て(って出ようとすると一階のドアのところがすでに蜂の雲が・・・)見ると、ステーキハウス松坂屋の入り口の階段上の軒下に、おそらくは千匹単位?の蜂が集結しつつあるところ。

( 註 千匹単位であるという根拠。

ややこぶりの蜂である。
この蜂が一センチのマス目に一匹ずつ入ってくれるとすると、33マス×33マスの大きさにおさまるだけでほぼ1000匹となる。
松坂屋の軒下には、30センチ以上の大きさで、二重三重に重なり合って群がっていた。したがって数千匹いたのはまず間違いない。


どうやら梅雨の晴れ間に「お引っ越し」を試み、松坂屋の軒下を新居に選んだようである。


誰が呼んだか、消防車が到着。


火災時と同じ消防服姿の隊員が3〜4名。


でも、なんで消防車の出動なんだろう。


確かにまだ誰も刺されていないから、救急車ではない。


相手は武装した蜂集団であるから、数を頼んで機動隊が来てピストルで駆除するといいと考えるかもしれない。しかし、百発百中命中したとしても、数千匹の蜂という数は、大阪府警の弾薬の備蓄の全てを使っても全てを駆除できるかどうか、というところであろう。


実際には百発百中は無理であろうから、大阪府警は蜂に対しては無力であろう。


したがって、「蜂vs警察」というのは現実的ではない。


それに引き替え、消防のみなさんはどうか。少なくとも、その防御力に関して、救急より、警察より、自衛隊よりも強力である。


その出で立ちをば見てみれば、顔の目の回りの一部以外に肌で露出しているところはまったくない。さらにその消防服の生地の分厚そうなこと。灼熱の火災現場でも耐える耐久性である、蜂の一刺しなどものともしそうにない。


しかし、大阪市消防局がなし得るのは、そこまでである。専守防衛である防火服は、やけどにも蜂にも強いが、攻撃能力はない。


唯一の攻撃は放水であるが、新しい巣の候補地にせっかく集結しつつある数千匹の蜂の大群に放水したら、単に西中島4丁目に蜂の群を拡散するだけで、何匹かの蜂は気絶することはあるかもしれないが、大半の興奮した蜂が、ご通行中の善男善女に決死の攻撃をかけることは必至である。


これではやぶ蛇、水に蜂である。


などと色々と考察していたら、駆除業者が到着したようで、薬剤を散布して一件落着。


しかし、その後の様子見などを含めて、消防の方々が退去されたのは、3時であった。


炎天下に防火服で2時間以上。


まことにお疲れさまでした。消防のみなさん。