786話 たったの○日
驚くなかれ(いや、ホントは驚いてほしい)なんと3日である。たったの、わずか、3日である。二泊三日なのである。
新入りが入った時には、3日前に取り込まれたタンパク質は卒業である、出所である、退職である。
見かけ上は何ヶ月もそこに存在する細胞である。しかしその中身は3日で総員入れ替えなのである。4日目には一つとして同じ飯粒は残っていないのである。
しかも、取り込まれた細胞内に二泊三日とどまっているというのではないのである。飯粒よりもさらに細かいところまでバラバラになって、また再結合し、当然移動し別の部分になりながら、なったかと思ったら、またバラバラになって他の部分の一部となる。
人体の中では、安定しているところはただの一カ所もないのである。痛んだり古くなった部分を新しいものを取り替えながら生きているのではないのである。
もちろん、痛んだり古びたところを取り替る作業は行われている。が、調子のいいところもそうでないところも、まったく例外なく、細胞よりもさらに一段小さいレベルでは、根こそぎ材料の入れ替え組み替え作業が延々と行われているのである。
おなかについた余分な脂肪。何にも働いていない余剰なもののように思われている。使わないから皮下に『ためている』と言われている。物置や押入に入れっぱなしにして使わないもののように放置されていると思われている。(と筆者も思っていた)。
ところが、その「余分な脂肪」でさえ例外でなく、見かけ上はあまった脂肪のままで変わらないが、その脂肪を形作っている材料は、やはり例外なく3日で全て入れ替わっているのである。
川に波立つ景色を思い出して頂きたい。水面の盛り上がりというのは、あれは川底の形である。水面下に岩があれば、水面は岩の形に模したややなめらかな形に盛り上がる。
その盛り上がりの形を人体(臓器、細胞でもいい)と見ているようなものである。
自分が自分だと思っている自分は、流れの中の一部分でしかないのである。