792話 能面メイクの威力
そういう「何となく見てしまった体験」の話の続きである。
先日電車で乗り合わせた女性は、何とも無表情であった。メイクもやや厚めで、そのメイクの方法自体が「無表情を前提に」していると思わざるを得ないものであった。
メイクなんていうものは「欠点を隠しつつ、表情を際だたせる」ようなもんじゃないかと思っていたが、どう見てもこの方のメイクは「無表情を強化する」ために行われているものと思わざるを得ないものであった。
そして、またそのメイクをほどこすことで、くだんの女性は「よりいっそう、全ての感情を押し殺した表情を保ち続ける力」を得ているように見えたのである。
素敵な笑顔、屈託のない明るい表情によって異性(または周囲)の好感を得る、というのはなんとなく腑に落ちる。
しかしながら、「一切の表情を消すことで、逆に異性の(この場合同性がどう感じるかは未調査である)関心を集める、という方法があることを認識した。(筆者はみごとにからめとられているのである)
笑顔の場合は「好感」を発信することで、また好感を得ているのであるから、ちゃんとギブアンドテイクになっているようで納得がいくのであるが、それに比べてこの「断固無表情作戦」はなんかずるい気もする。
しかし、結果的にこちらは術中にはめられているのであるから、その能面メイクは成功しているとも言えよう。
しかしながら、この「無表情によるアピール」というのもなかなか難しいかもしれない。私の前の席のその若い女性は、見事なまでに感情の動きというものを消すことでl、こちらの関心を呼び起こしているのである。(続く)