814話 天然カークーラーの試み

27日

墓参り

今日は月末の恒例の亡父(およびお墓におられるご先祖様)の墓参り。


まだ夏休みの塾の「中三特別地獄の連日連夜休みなし期間」に突入していないひろが都合ついたので一緒に行く。


『行き』の車中の前半は、中島みゆきの「横恋慕」をエンドレスにBGMにして車を走らせる。

「これきりでよすわ

   一度言うわ 
     好きぃ〜です あぁなたぁ ♪」

アップテンポな曲にだまされてはいけない。天才中島みゆきは、横恋慕する女のおどろおどろした情念を軽快な曲にカモフラージュして歌い上げるのである。ひろが


「これ、恐ろしい歌詞やな」


と言う。そうそう、時に恐ろしいのが女性であるのである。


泉大津でCD交換をする。今度はひろの好みでエンドレス・グレイ・誘惑である。


もちろんおっさんと中学生の二人で裏声張り上げて、分からない英語の歌詞の部分は、似た音声に変換して適当に歌いながらである。


「時に愛は二人をためしてる

   びっこっぉおず あい らーびゅ〜」


尼崎で母上をお迎えして大阪市内へ。


それにしても暑い。あまりクーラーはかけないほうであるが、やはりかけてしまう。なんせ車の日に当たっている部分が全て焼けて、発熱している。


母上の希望で園芸関連品を買いにホームセンターへ寄る。さて駐車場に停めている間にも真夏の太陽でまたも車は焼ける。「焼け石に水」という言葉があるが、「夏の焼け車にクーラー」というのも同様の意味で使えそうである。


常日頃地球温暖化に胸を痛めている親父と息子である。この「焼け石に水クーラー状態」をなんとか改善したいと思ったのは必然であろう。


昨今都市部では「打ち水の効果」が見直され、町内一斉打ち水大会のごときものが企画されたりする。


水は、蒸発する際に、多大にエネルギーを必要とする。気化による熱エネルギーの吸収によって温度を下げるのである。


この原理を応用して「冷蔵庫なしで缶ジュースを冷やす方法」というのがある。濡れタオルで缶ジュースをくるみ、電車の窓際、車の窓際などに置き、風を当て続けるのである。タオルの水分の蒸発によって缶の中の熱は奪われる。小学校のころ「冒険手帳」という名著によってこのことを知った筆者は、実際に試み、予想外の効果を体験したことがある。


車は走っているのだから、風には問題がない。後は車の表面に水を振りかけてやればいい。幸いそこはホームセンターなので、住まいのマイペットのような洗剤を入れるような霧吹き状の容器が売っていたので、購入。空のペットボトルに水をくんで持ち込み、補給用とする。

ぎんぎんに焼けたダッシュボードの上にもタオルをしき、霧吹きでしゅっしゅしながら走る。こちらは確実に表面温度は下がる。さらに窓を開けて、ひろに車の屋根部にしゅっしゅと水を噴霧してもらう。


さて実験結果だが、実験としては成功し、実用面としては効果がなかった。


室内からさわっても熱い車の天井部分の、ちびちびと水をかけた部分は、確実に温度が低下した。さわっても熱くない!しかし、霧吹きのしゅっしゅで噴霧可能な水量と噴霧できる面積は屋根全体からすると実に狭い。


そして噴霧のために窓を開けるたびに、外気の熱風が流れ込んでくる。結果として屋根を冷やすために窓を開けて噴霧するたびに、外気が流れ込んで室温が上がるので、屋根の冷却効果がそのたびになくなるということが分かった(笑)


したがって、実験は成功だが、実用には足らないのである。


けれども、たとえば屋根部分を覆うフェルトの布のような保水性のあるものを取り付け、そこにたっぷりと水を補給しつつ走れば、けっこう冷却効果が出そうな氣がする。ぜひとも確かめてみたいところである。


斬新なアイデアに自分で感心していたが、これって打ち水屋上緑化を足しただけのような気がしないでもない。


ならばと屋根の保水材にかいわれ大根やネギを植えるというアイデアも車中で検討されたが、家族の反対に遭うことは必至なので、却下とあいなった。


なんにせよ、こういう親父の実験に、前向きに協力してくれる息子に感謝なのである。うまくいかなかったけど、とっても楽しかったのである。