879話 レコードダイエットと社長になりたい人

レコードダイエットというのがあるそうだ。筆者が耳にしたのは、体重100キロを超える「オタク評論家」の人が、別人のようにスリムになって出演していたテレビでのコメントである。


目標を立てるとか、一日何カロリーに制限するとか、そういうことはしない。ただ、食事のたびに何を食べたかというのと、対応するカロリーをメモ用紙に書き出す、というただそれだけで週に1キロずつ体重が落ち、見違えるようにスリムになっていた、ということらしい。


筆者は、そのテレビ番組を見て「これはありうる、使える、ホントだと思う」と感じたのであった。


何度か書いた話だが、目標を立てても、一日の計画表を作っても、やるべき事を書き出しても、なかなか改善しない怠けものの筆者が、「今やり終えたことをひたすら書き出す。ついでにかけた時間も書き出す」と、とたんに品行方正・謹厳実直・勤勉な私になる、という方式とほぼ同じ心理作用であろう。


頭で立てた計画に体を合わさせようとすると、裏切られるのであるが、方向性は明確にした後、体が今なにをしているのか、というのをきちんと把握すると、なぜか行動は好ましい方向へと微調整され、それが継続するのである。


ゆえに、ダイエットからスポーツなどなどの上達論の前提が間違っている可能性があると感じている。


脳・意志が体・肉体をコントロールできるという視点から組み立てられているメソッドやスポーツの練習方法が圧倒的に多い。というかほとんどであろう。


そうでない方法というのはほとんどお目にかからない。何故かと考えると、脳・意志が体・肉体をコントロールできるという前提に立たないと、脳や意志の立場がなくなってしまうからである。


脳=自我意識が私だとすると、私の意志が最上位にいないことには、何事も始まらないわけだ。自我意識社長論とでも表現すれば、意志でコントロールしないと言われると、社長はいらないということになってしまう。


脳が社長だとする。肉体が社員だとする。


ある社長は、目標を立て、社員に事細かに指示し、チェックし、うまくいかないと叱咤激励し、販促費を投入し、人事を入れ替える。そうやって目標を達成しようとする。この図式は確かに、その目標を達成するのには有効に思える。


ある社長は、方向性=何をしようとするのかは立案する。もちろん社員に伝える。伝えた後は、ひたすら社員一人一人が何をどうやっているのかをニコニコとながめる。そして「いい仕事してますねえ」と社員に声をかける。社員の部署そのものはさわらないが、部署そのものが請け負う役割は、もっともいい仕事をする部署が自然に請け負う。


こういう図式になると、計画通りに目標は達成されないかもしれないが、予想以上のことが生まれてくる可能性がある。


筆者は、みずからの体の好ましい方向への変化や、整体や武術の上達の経験から、圧倒的に後者の立場を支持し、採用する。


思い通りになるよりも、思った以上の事が現れる方が面白いんだもん。