910話 鼻の話と族のエコドライブ

朝に○○さん夫婦がやってくる。奥さんの○○子さんは、ここ数日、なんと「臭いがしない」という。


それはとっても良くないことだと思うのである。


人間だって香りを感じないと、飲食の楽しみが激減するとか、味気ないとか、そういう程度のことは読者も想像がつくだろう。しかし、少しさかのぼってご先祖様の時代(動物だった時代)を考えるなら、嗅覚というのは「生命がけ」だった。


犬なんかは、色覚もあまりないらしく、色の無い景色を見ているのだとしたら、青いミカンと橙色に熟したミカンも見た目では分けられない。熟した食べ頃とまだ酸っぱいものだって、臭いがわかれば簡単に判別がついたことだろう。


四つ足の動物は、基本的に目の位置が低いし、顔だって下を向いているから、遠くが観にくい。(四つんばいになってみれば分かる)視覚に頼っていたのでは、食べ物、異性、敵など見つけにくいことはなはだしい。(と想像される)


近間の臭いしか分からない人間では想像できないが、視覚の力がさほどでもない獣たちにとっては、臭いというのは、おそらくもっと遠近立体的に感じていたものと思う。チャンスをつかむ人のことを「鼻が利く」と言うが、ご先祖様の動物たちにとっては、まさにそれは生命がけで当然のことであったろう。


さらに「フェロモン」なんて言葉もあるが、鼻と性というのもまたきわめて密接である。これが機能しないと、みずからの種の生命が絶えてしまう。夫婦仲に無関係だとは言い切れまい。


それだけ重要な機能は、単に鼻の粘膜やら嗅覚細胞のみならず、「嗅ぐ」という行為とつながる運動ともつながっている訳だから、そえが臭わないということになると、そういう動きの失調ともつながっている。


てなことを考えながら、ピポパと整体。


午前中にぽっかり時間が空いたので、ためさんとお茶を飲みに行く。


さまざまな地域や団体や自治体やらに出向いては、なにゃかんやとコーディネートしているためさんである。エコがらみが多い。


エコと言えば「エコドライブ」という燃費を良くする走りの講習なんてのもあるそうだ。そしてためさん曰く


「実は、暴走族の兄ちゃんというのは、けっこうエコドライブなのです」


えっ!


「正業について、朝から晩までまじめに働いてがっぽり稼ぐ、というライフスタイルを取っていない青年が多い【族】のみなさまは、お金がない。ゆえに出来るだけ燃料をケチりたいのです」


「でも、いざという時のスピードは出したいのです。そこで燃料を食うエアコンはかけない。車体は可能な限り軽くする。いらない付属品はどんどん外す。エンジンは常に点検を怠らない。で、結果的に燃費は良い」


なるほどね。何事も聞いてみるもんである。