912話 読んでないのに推薦図書

最近ちくま文庫から片山洋次郎先生の「

整体。共鳴から始まる―気ウォッチング (ちくま文庫)

整体。共鳴から始まる―気ウォッチング (ちくま文庫)

」を読む。


と書くと嘘になる。読んでいない、というのでもない。実は29ページまでしか読んでいない。しかし、自信を持って「これはいい本だ!」と断言してしまう。すくなくとも29ページまでは、筆者が「こういうことを言いたかったんだ」ということがことごとく網羅されている。


火曜日の稽古会や土曜日の稽古会に来ている方は、ぜひ購入して読んで頂きたいと思ったぐらいである。


にもかかわらず筆者本人は読むのを止めたのである。


あまりに言いたいことが書いてあるのである。書かれすぎているのである。


どういう症状の場合には、胸椎何番を押さえた後で、腰椎何番のどこそこをはじき、という本であれば、ここまで続きを読むのに抵抗は出ない。ざっと読んで、頭に入れて、読み返す必要性が出てきた時に読み返す手がかりを残す、という読み方をするであろう。


ところが、この本の29ページまでは、少なくとも片山先生の体感が書かれている。体感から導き出された実感が書かれているものと感じたのである。


それは筆者の日常である。体感して実感して、仮説を立てて検証して、使い物になる技術にしていく。その繰り返しがおもしろくってしかたがない。人間とはこういうものであるという虚像が崩れ、不思議な実像(?)が現れてくるのである。その感じて見えてきたものにしたがって手を当てて、これまた受けに来られる方々が元気になったり、閊えが取れたり。


29ページまでを読むと、まさしくそういう繰り返しの中で目の前に現れつつある世界が書かれているのである。ということは、30ページ以後には、その後に見えてくる世界が書かれているに違いない。


すると、今後の筆者の出会うであろう要素・景色が先んじて書かれてある可能性は大である。


筆者、今までこの道の先人の教えを受け、また書物に残されたものを読み、それらを手がかりにして今に至ることができた。したがって、金輪際整体について書かれた本を読まないと言っているのではない。


いましばらく自力でじたばたとしたいのである。暗中模索・右往左往しつつ、自ら見つけていくのを楽しみたいのである。


しかし、30ページ以後に、本当に筆者が自力で出会える要素が書いてあるとは限らない。そこに書かれてあるヒントなしではたどり着けない可能性のあることが書いてあるかもしれない。


筆者が、早く手を付けておいた方がいいことにもかかわらず、読まなかったばっかりに手つかずのまま放置するというもったいないことも起こるやも知れない。


そこで、折衷案として「目次だけは読んでいい」ということにした。


目次のみ目を通しつつ、きっとこういうことが書いてあるに違いない、というものを追求してみよっかなと思う。


半年先になるか一年先になるか、一週間後には読み始めてしまっているかは分からないが、少なくとも筆者がこの本から得るものを最大限に拡大してくれる作用があるのは間違いない。


将来の筆者自身の力になるのは、その本に書かれていることだけではなく、「そこに重大なことが書かれているに違いない」という私の「思いこみ力」にだってあるのである。


今、お気軽に術理秘伝にアプローチできる時代に抗う、へそ曲がりは私である。これも秋になってねじれてきたからかな、とも思うけど、そういう試みをするって考えるだけで、一気に読んでしまうよりはずいぶんと長い時間楽しめるのである。