929話 亀田戦からボクシングの思い出 3

さらに叩いていいのはベルトから上。体の前側と決まっております。(ただし、のどはダメだったはず)


前側といっても前頭部の骨のごついところや胸板なんてところは効きませんから(しかし、その効かない前頭部でもホントにいたかった)狙うのは顔面とか腹部とかに限られてまいります。


そうすると、その限られた場所をガードしたり避ければいいということになり、その技術をせっせと磨くことになります。だって金づちで殴られるのは誰だって嫌です。ゆえに、よほど実力差がない限りは、そうそう簡単に当たるものではないのです。(筆者はK築くんとよほどの実力差があったため簡単に当たりましたが)


その「そうそう簡単に当たるものでない」ところに有効打を当てる優劣を競う競技がボクシングだということになります。ノックアウトというのは、そういう「戦闘不能状態」に一時的に追い込めば、その後はルール通りに続行したとしても、勝者がひっくり返る可能性はほとんどない、だから試合を終了するのだというふうに筆者には思えます。きわめてどつきあいのケンカに似ておりますが、似て非なるものがボクシングだということです。


その「そうそう簡単に当たるものではない」という前提には、グローブのこの部分を決められたこことここにしか当てちゃダメというルールがあって成り立ちます。だからスポーツとして成立するのであります。


倒れたところを叩いちゃいけないのも、後頭部を叩いちゃいけないのも、ひじを使っちゃいけないのも、頭突きをしちゃだめなのも、投げ飛ばしたらいけないのも、『グローブのこの部分を決められたこことここに上手に当てる競技』と考えれば納得のいくところであります。


亀田一家は、おそらくそこのスタートの部分で「相手を戦闘不能に追い込むことがボクシングであろう」と間違った定義をして、それををひたすら追いかけてきたのではないかと思われるのであります。だから分からないように反則したって「相手を戦闘不能に追い込んだ方が勝ちやろ」ということになってしまうんではないかと思われます。


しかし、それで勝つということは「100メートル走の競技のゴールを密かに95メートルにして獲得した世界記録」や「途中でバイクに乗って距離を稼いだマラソン」と同じではないかと思われるわけです。いくら人気があろうと注目度があろうと、そういうことをやった選手は、その競技界から永久に追放されるのが当たり前ではないかと思います。


亀田戦のことに「K築くんの死ぬほど痛いパンチの思い出」を足して考えると、一年間の資格停止で済んだというのは、実に温情判決だなあ、と思えてきた筆者でありました。