999話 「♪ チュッ チュッ チュルルル〜 ルッチュ

28日

今日は朝からあさちゃんと車で尼崎へ。年末の墓参りである。


本日の「ドライブBGM」は、小田和正の「自己ベスト2」と徳永英明の「ヴォーカリスト3」ならびに柴崎コウの「kissして」の三枚。


「ヴォーカリスト3」は、女性アーチストの曲ばかり集めた一枚である。さすが売れているだけある。「恋に落ちて」「まちぶせ」「元気を出して」「プライド」などが収録されている。


一曲目は「恋に落ちて」。言わずと知れた「金妻」の主題歌である。(といっても筆者このドラマは見ていないけど)。


英語の歌詞の部分は、適当に「それっぽく聞こえる音声に変換」して、気分良く歌う。


名曲ではあるが、これはあと数年にして「古典」となり、「よく意味の分からない過去の習俗」と化してしまう「絶滅危惧種」であることが分かった。


問題は最大のさび、盛り上がり、決定的一打のこの


「♪ ダイヤル回した手を止めた〜ぁ」


の部分である。今ご時世、誰も「ダイヤルを回さ」ないのである。


若い読者に言う。20年ほど前はね、世の中の人は全て、よくかける電話番号は暗記していたのですよ。


家庭ある人を愛してしまった女性が、愛する人が家庭に帰る土日、電話をしては最後までダイヤルを回しきらずに「受話器を置く」、という象徴的な場面を歌っている。


記憶した番号を、一桁ずつダイヤルを回すという行為に変換し、その「一桁数秒」に「慕情」が圧縮され、つのり、その行為の終了までいかずに中断する、という「意志・記憶の呼び出し・ダイヤルという行為・感情の高まり・・・・・行為の中止」を「ダイヤル回した手を止めた」のフレーズに注ぎ込み、そこから想起される10数秒の行為の一連が脳裏に浮かび、ハートに響くのである。


しかしながら、現在ではこの「葛藤」は実に短縮されている。


「フリガナ検索 ワンプッシュ」「着信履歴 ワンプッシュ」では行為の最中に葛藤する余地がないではないか。

機械におまかせ状態であるので、葛藤とか逡巡という部分の味わいがカットされている。


「まっ、とりあえずメールしとこっかな」

の世相ではこの曲は生まれない。





さらに軽快に「kissして」を腰椎5番に響かせながら、母上と合流してお墓へ。


スイミングの「日帰り合宿特訓中」で同行できなかったまいちんは、姉(あさちん)が「お墓の前にある【はなまる】でおばあちゃんと洋食焼きやネギ焼きやお好み焼きを食べるであろうという空想に嫉妬に狂い(その通り、全て食べた)、すねて押入に潜り込んでしまったという。


おばあちゃんにミスタードーナツをお土産に買ってもらう。


実家では、パソコンとプリンターを持ち込み、母上の年賀状をてきぱきと作成して献上する。


一日雨である。これでたき火の薪になる「紀ノ川河川敷の流木」はことごとく濡れてしまった。明後日は大寒波だという。雪も降るかもという話である。


30日の温泉ツアーは、臨機応変に内容を変更しての実施となることが予想される。


まあ、その時はその時。


雨中、やはり3枚のCDの中で「最も呼吸器に響く」【kissして】をがんがんに響かせながら和歌山へと帰る。


「♪ チュッ チュッ チュルルル〜 ルッチュ
                 裸の くちびる kissして」


おおお、肋骨が開くぜ。