1009話 ご先祖さまのたたりです

筆者は無神論者ではない。霊の存在も別段否定していない。ただし、筆者には霊の存在は見えないし、神の声も聞こえない。だからといって否定しているわけではなく、なんとなく「筆者の想像する範囲を超えた存在」としてそれらを認めている。


さて、しばらく前にエリート警察官がからんだ「神世界」とかいう「会社」が、なんぞや悪いことをしていたというような報道があった。


自称「霊能者」が、「あなたの前世は○●で」というような「すぴりちゅある」な「めっせーじ」をのたまうことがあるようである。


「あなたの15代前の先祖が、これこれこういう非業の死を遂げて、その無念があなたにたたっている。ゆえに当会が勧める『極上 ご先祖様安心ご成仏 特性 墓石 スペシャルセット オプションでご祈祷が付きます』をご購入しなさい。さすれば、たちまちにして無念のご先祖様も笑顔にっこり、怨念すっきり、たちまちにしてあなたに襲いかかる怨念の邪気は、雲散霧消、さあさ、さあ、さあ、買いなはれ、買いなはれ」


というようなシチュエーションがあるらしい。


しかし、筆者はこういう「ご先祖さまの恨み」というのはあまり信用できない。(皆無とは断定していない)


たとえば15代前のご先祖様、というのは誰だろう。


一代前のご先祖様は二人である。(父母だ)。二代前のご先祖様は4名である。(父方母方のおじいちゃんとおばあちゃんである。ひいじいちゃん、ひいばあちゃんは合わせて8名おられることになる。(たいていは亡くなっているから、そんなに「いるとは思えない。以下さかのぼってみると


3代      8人
4代     16人
5代     32人
6代     64人
7代    128人
8代    256人
9代    512人
10代  1024人
11代  2048人
12代  4096人
13代  8192人
14代 16384人
15代 32748人

つまり、祟っている15代前のご先祖様は推定32000人ほど「容疑者」がいるということになる。16代にさかのぼると甲子園球場にも収容しきれなくなり、17代さかのぼると国立競技場でも無理。19代さかのぼると我がふるさと尼崎市の人口を越え、20代では100万人を越える。


世代を一代25年と考えると、4世代で100年。15〜16世代前というと1600年ごろである。豊臣の世が終わって、家康登場、関ヶ原!というころである。関ヶ原の頃の32000人ほどのご先祖様のうち、ご一名さまからの恨みつらみ、怨念。これほどいるとなると、ご先祖様というよりは、「他人」の範疇に入れても別段ご先祖様も怒らないような気がする。


ちなみに15代前のご先祖様が、少なく見積もってそれぞれ子どもを二人だけもうけたとすると、子孫の数はこの逆だけいるということになる。


私が「恨みに恨んで死んだ」とする。ちゃんと供養をしていないと憤慨していたとする。



「よし、ここは一つ、子孫にたたってやろう」と強く決心したとする。


ここに難問が立ちはだかる。15代後の子孫には32000人ほどいるのである。しかし、その子孫の中には、子に恵まれない子孫がいて、養子をもらった家もあれば、羽振りよく、精力絶倫で側室を多数も受けた武家の子孫や、あっちこっちにおめかけさんをかこった好色な子孫もいたりするかもしれない。


血縁としては途切れたり、嫡子非嫡子の流れもあるであろう。そういった戸籍問題は、ご先祖様はどのように扱われているのだろう。


それほどややこしい32000人の中から「もっとも恨み甲斐、たたり甲斐のある子孫を一人選べ」と言われたら、筆者ならその時点で「そんな手間のかかることなら、やめますわ」と言うだろう。(誰に言うんだ?)


「ご先祖様の恨み」と脅かす自称「霊能者」の方々は、「あなたは気づいていないが、あなたはその方の子孫なんだから、供養の義務があるのだ」ということを言外ににおわしている。


しかしながら、その「供養の相続権者」は、32000人ほどいるのである。決めかねながら25年もたつと6万人。さらに25年迷うと12万人。さらに25年たつと24万人。100年放置されると50万人ほどに「対象者」が増えるのである。


私がご先祖様なら、そんなややこしいことはしたくない。


血縁があろうとなかろうと、手近な気の弱そうな、たたられがいがありそうな、手応えのありそうなやつに無差別攻撃をかけるであろう。


しかし、どこの誰かはわからないやつの、逆恨み的な怨念ですね、ということになると『極上 ご先祖様安心ご成仏 特性 墓石 スペシャルセット オプションでご祈祷が付きます』が売れない。


というような図式があるのではないかな、と思う。