1016話 【板東玉三郎】

【板東玉三郎

『遠くを見ない 明日だけを見る』


NHKの「プロフェッショナル」で玉三郎を見る。


たまげた。ごろっと見始めたのであるが、放映開始1分で正座となり、それはそのまま番組終了まで続けた。とても「ごろっと」見ることのできるしろものではなかった。

5分後には手帳にメモを取りながら見た。


玉三郎は、現在も「年間500ステージ」こなすという。これだけでもびっくりした。比べるのもおかしいが、筆者は月間30講座強で年間400にも手は届かない。


なんと言ったらいいんだろう。


玉三郎の舞台で500ステージである。世界のアクターやダンサーから「一目も二目も置かれている」「玉三郎レベル」のステージを、年間500も続けておられるのだ。


しつこいようだが、比べるのもおこがましいが、「玉三郎玉三郎レベルの舞台を年間500ステージ」という事実を知ってしまうと、自分の講座講習が「どれほどレベルが低いか」ということが明らかになった。


前に「桃ちゃんの日記からの引用」として「尾骨をぴっと立てる」ということってどういうことだ、というテーマが浮上した。そこで私見を色々と書いた。


「百思案」は一見にしかずであった。


正座して氣を入れて玉三郎の踊りや所作を見ると、ず〜っと尾骨が立ちっぱなしである。体感を表現するならば、S川さんが送ってくれた「カンガルーの写真」そのままであった。


玉三郎は台本の自分のセリフに赤丸をつけている。これは役者は誰もする。その先である。玉三郎は、自分のセリフに通し番号をつけている。そして、何番が盛り上がるとか、何番が押さえるところとか、流れから細部まで、その全てを緻密に整理して収めてしまっている。


名優・片岡仁左衛門との共演では、ラストシーンに悩む仁左衛門と稽古以外にも打ち合わせやアドバイスをくり返し、そして「問題が解決しない」まま、ラストが決まらないままに初日をむかえる。


その本番で、玉三郎は(片岡仁左衛門に殺される役です)は、斬りつけられてから息絶えるまでの「間」を、稽古とは比べられないぐらい長い間を取った。いきなりとった。

しかし、そこは仁左衛門である。その「間」によって、愛する女房を逆上して殺してしまった「逆上から我に返って、死体にすがりついて泣く」というシーンを見事に演じきった。


その部分でテレビ局が付けたタイトルが「演技を伝染させる」であった。

テレビを通して見るだけで、骨盤が立ち、尾骨が立ち、氣を入れている間中は、それがゆるみようがないほど見事に立ってしまう身体能力の玉三郎である。


台本を数字で管理して、セリフ数から把握し、一切を整理して頭にいれ、身体に叩き込むレベルの玉三郎である。


片岡仁左衛門をして悩ませる場面を、その演技によって彼の「納得のいく演技」を引き出す、「受けの能力」を持った玉三郎である。


そのレベルの舞台を年間500ステージこなしているのである。


と、ここまではテレビを見ながら取ったメモの3分の1を元に書いている。残り3分の2を書き出すと、ここまで書いた倍ではすまない。


タイトルに付けた


『遠くを見ない 明日だけを見る』


に関してもまだ論じていない。


さらに


うううう、あの「手」。


あの手が包丁だとしたら、我が手が「旧石器」「打製石器」に見える。石器にもなっていないただの石かもしれない。


続きを書いている場合ではない。少しでもこのなまくらを「まし」にしなければならない。



ところで、来週の予告は「イチロー」である。


短時間圧縮の予告映像でイチローは語っていた。


「50歳で4割打って、辞めます」

ううううううううう。


来週もテレビの前で正座でのたうち回ることになるだろう。

火曜日の10時NHKである。