1020話 達犬 すずな師の研究

部屋でごろりと横になっていたら、愛犬・柴犬の「すずな」がなめにきた。


犬が飼い主をなめる時、なめたいところをなめていると思っているのは浅はかである。


犬が、猫が調子悪い時、なめて癒しているではないか。犬はなめたくってなめているのではなく、こちらの身体の「調整欲求」のある部分に引っ張られて、「氣を入れた舌」で舐めているのである。筆者にはそうとしか思えない。


まずは上腹部左側の、つい先日「硬結」を見つけた部分、つづいて上胸部・胸骨左のピンポイント疲労部分。ここまでは「自己調整」の対象としてこちらも見つけていた部分なので、驚いたけれど、驚かなかった。


次には、指。特に指の股を深くするようななめかたをし、親指は指紋を丹念に舐める。これってここ2回の整体教室で指導した内容そのものではないか。


つづいて口の回り。


ここは、さすがに「さきほど筆者が食べたもののかすでもついているかな」と思ったが、実に丹念に口の「まわり」を何回も舐める。どうやら「歯茎の問題解決」のようである。そうか、ここは気づかなかった。


さらに左すねの外側から外くるぶし。右のアキレス腱とつづく。おおお、これは筆者の「体癖修正の急処」ではないか。君も修業が進んでいるんだね。


前にも書いたが、やはり恐るべし、整体犬すずな。人であれば『達人』であろうが、犬であるので『達犬』であろうか。


しかし、瞠目さしめるその能力も、ほんとうは、人間もみんな持っている能力。


ってここまで書いて、前の「無意識動作の研究」とは矛盾していることに気づく。


つまり、前回では「目的を明確にした後、自分が何をやっているのかをちゃんと認知することでレベルは上がる」と書いている。


が、どう考えてもすずながそういう「目的意識」と「意識的な認知」をしているようには思えない。にもかかわらず実に


「いい仕事をして」


いるのである。


ここでまた筆者は


「自ら動くものは偽物である。真に優れたパフォーマンスは、相互関係の中に生まれる『引力』によって導かれた時に発揮される」と、またまた前回の発言との整合性などおかまいなしに、取りあえず宣言するのである。