1032話 無理にストレッチらない方がいいように思う

よき聞き手を持つということは幸せなことである。


筆者の講座も、参加される方々が熱心に聞かれることをエネルギーとして、その瞬間まで考えたこともなかったような言葉が口から紡ぎ出されて、話をしている自分が感心することがあり、しゃべりを中断してメモすることも再々ある。


前々から体験的に「ストレッチというものは、きちんとやるほど身体のバランスが崩れ、動きが悪くなる」ということを確信し、折にふれて悪口を言い、自らのフィールドにある「ヨガのアサナ」が、「じゃあそういうお前はどうするんや」という批判者を仮定することで、せっせと中身を試行錯誤し、創り上げてきた。


あっ、自然体チューニングの3日は、「応用編」と予告しておりましたが、この二日間で感動的な進展があり、効果が倍増(柔軟性、筋力、スピード、歪みの矯正される度合い、運動時の連携・連動・統合感)しまして、それをやります。お楽しみに。


ヨガも、その「新・チューニング」に添ってやりますので、これまたすっごくかわりますよ。


話題、本題は「ストレッチ」。


火曜日のヨガのクラスの最中に「ただ伸ばすだけのストレッチは身体のバランスを崩します」という話をしていて、唐突に理由が分かったのである。いい加減にやればたいして崩れないのに、正しくやるほどなぜバランスが崩れるのか。


ストレッチをやる理由としては「筋肉を柔らかくするため」というのには異論はないでしょう。激しい動きの前後にやって、トラブルを防止し、疲労を抜くということですね。


ストレッチは舶来ものですから、理論的です。「この筋肉」を伸ばしたいから、右手の位置はここ、左手はここ、この方向にゆっくりと引き延ばす、というような誘導になります。


つまり「目的とする筋肉」が定まっているのが「正しいストレッチ」なのです。


よく見る肩の筋肉のストレッチ。前に習えのように伸ばした右腕を、伸ばしたままで手先が身体の左側に来るところまで移動させて、左手を前腕に当てて手前に引くようにすると、肩の筋肉が十分に引き延ばされます。


このストレッチ、市民マラソンの出発前とか、ジョギング中の公園での一息入れている時などすっごくよく見ます。


『左手を前腕に当てて手前に引くようにすると、肩の筋肉が十分に引き延ばされます』と書きましたが、いい加減にだらりんとした右手では、いったいどの筋肉を伸ばしているのか今一つ手ごたえが得られません。


そこで肘も少ししっかりと伸展させますと、肩のあたりが引き延ばされるのが感じ始められます。しかし、これでは腕のどの筋肉が伸ばされているか今一つあいまいです。そこで左手をつかってもう少し圧力を加えます。


ところが、肩のあたりの力が抜けたままだと、いつまでたっても今伸ばしている筋肉の特定ができません。そこでさらに肘を伸ばし、左手の圧力を加えます。ところが左手ばかりにがんばらせていると上半身は左に回転をして、ストレッチになりません。


そこで「格好良くこのストレッチが決まっている人」を見ると、実は右肩を右方向に戻し、左に引っ張る手と拮抗させているのです。肩の筋肉がしっかりと伸ばされている感覚が得られて満足そうです。


この時何が起こっているのでしょうか?


実は、この時に得られる「手ごたえ」は右肩を右に戻すことによって生まれる「筋肉の緊張」によって得られるのです。肩のあたりにある複数の筋肉から、一つを選んで「力」を入れることで、いかにも「特定の筋が伸びている」ように錯覚させるのです。


角度は違うのでだまされますが、ようするに、「腕相撲で負けている時の力こぶの筋肉」のような状態を自作自演しているわけです。


もともとの目的は「筋肉を柔軟にする」ことだったはずですが、実は「筋肉に力を入れることで縮め、そこに体重やひっぱる力を加えて「人工的に手ごたえ」を作り出して、「おおお、効いてる!」と感じているわけです。


「腕ひしぎ逆十字固め」を桜庭に決められた状態といえば、いいかもしれません(ってそこまで過激なわけないだろ)。でも現象としては同じです。刺激が軽いだけです。


せんたくするのに、どれぐらい汚れが落ちるのかわからないから、わざわざ汚してから洗うようなことをしているのです。


筋肉に負荷をかけつつ伸ばしている(って、一般的なヨガやストレッチで気づかずにやっている状態)時間をある程度持続すると、ふっとゆるんで筋肉がぐいっぐい〜っと伸びが感じられる瞬間があります。


これは筋肉の防衛反応です。無理矢理に伸ばされる時間が続くので、しっかりと締める力をこのままキープし続けると筋肉が損傷を起こすので、ある時点で「力を入れることよりも、切れないために伸びちゃおう」と筋肉が判断するのです。


すると、確かに可動域は大きくなるので身体が柔らなくなったよう気がするのですが、その時には引き替えに筋力の一時的な低下を招いているのです。


なんにしても、この「ストレッチというのは、自作自演の腕ひしぎ逆十字固めだ」ということに気づいたのは、以前にS川さんに聞いた


「筋肉というのは、筋膜に包まれたぷにゅぷにゅのにゅるにゅるでっせ」


という「解剖体験の感想」が大きい。


ということで、3日の『大人の寺子屋』は『S川さんと人体解剖を切り口に身体をあれこれ語る』に決定しました。


自然体チューニング講習会ですが、3日はすでに申し込みが10名を越えましたので、希望の方はお早めに。11日はまだ空きが多いです。

ところで、「だ、ある」で書き出した本日の内容が、途中から「ですます」に変わってしまった。これは、書き出した途中で集英社新書橋本治著「上司は思いつきでものを言う」を読んでしまったためです。とても面白い本でした。しかし、あまりにおもしろかったため、文体がそのまんま「まねまね」になっています。同じだけの深い洞察を平易な文章で書きたいと思いますが、中身はそこに至っていないので、まずは文体からということで。