1054話 体話8 見えるから歩ける



聾唖の人がしゃべれないのは


自分の発する音が聞こえないからだ。


ときどきヘッドフォンをかけたまま


音を外して歌っている人がいる


自分の声が聞こえないと、ああなる


自分の出している音を、よく「聴く」ことが、楽器や歌の上達の秘訣だ


聾唖の方でも会話ができる人がおられる


もちろん同じ音声は聞こえないのだろうけれど


おそらく肌や骨に感じる振動を一つの推理のタネにして


音というものの存在に見当をつけ


家族や周りの人の協力で発声を身につけていく


聴覚を持つ誰よりも「聴こう」としているだろう


発声しようとする何倍もだ




足に何の故障もなくとも


目を閉じたら歩けない


スポーツの練習などで、一つ一つの動作を


「意識的」に「やる」ことは


お勧めしない筆者だ


意識的に「やろう」とするとこわばるだけだが


自分のやっていることは、ちゃんと見ないとダメだ



尺八の練習のとき


後ろ向きに歩く体感をつくりながら吹いたとき


今までで一番いい音が出た。


「聴く耳を持つ」には、いい方法のようだ