1116話 愛の流刑地のサザエさん

島根大学法文学部の同窓会誌に、拙文を寄稿させていただいたところ、編集に携わられる法学科の先輩にしてバイト先のOBにして、合気道部の同期、への君とパパリンK井君の高校の先輩である吉やんから


「原稿のお礼は我がふるさと、隠岐の島根の特産品を僕が腕によりをかけて選ぶんだかんね」


との予告は、原稿をお送りした時にお聞きしていた。


その吉やんから


『本日、頼んでいた漁師さんより隠岐の特産であるさざえが上がったとの連絡があり、発送の手続きをとりました。明日にはご自宅に届くと思います。日本海の荒波に洗われたたくましいサザエをご賞味下さい。』とのメールが届いた。


なんと血湧き肉躍り、胃袋は喜び庭かけまわり、七転八倒、七転八起、用意周到、意味深長な珠玉の文言であろう。


「頼んでいた漁師さんより」


もう、この文言だけで、15歳で初めて海に出て以来50年、海一筋に生きてきた岩井義作さん(65歳 隠岐西郷町在住 ただし住所氏名年齢全て推定)の赤銅色に焼けた、しわだらけの笑顔が素敵で、頭に巻いたタオルがとっても似合うお顔が目に浮かぶ。


隠岐の特産であるさざえが」


隠岐と言えば「島流し」。


しかし、刑事犯の流された「佐渡島」にたいして、後鳥羽上皇を初めとする「政治犯」の流刑地であった隠岐の島は、その島民たちの人情あふるる心根の優しさで、流された政治犯にとっては「島流し」という言葉ではとうてい合わない居心地の良さであったらしく、誰やらという政治犯は、その罪が許されて都へ帰った後、「余生は隠岐で暮らしたいのぢゃ」と、今度は家族連れで隠岐の島にみずから赴いたという。


おそるべし、ラブリーアイランド隠岐の島。愛の流刑地である。「愛ルケ」であった。



もしかしたら、明日届く予定のサザエは、後鳥羽上皇も食ったサザエの子孫である可能性も大なりである。なんとも雅(みやび)なサザエかもしれない。


「上がったとの」

おおお!今まさに日本海の波間をかき分け捕獲された水光りのするサザエが目に浮かぶ。わずかこの6文字の1センテンスから


「新鮮!新鮮!新鮮!新鮮!新鮮!新鮮!」


というオーラが周囲を圧しているではないか。


「との連絡が入り」
おおお!


過日、隠岐のとある漁港に、いつものように謹厳実直を絵に描いたようなY山先輩が訪れ、今ちょうど漁から帰ってきた岩井義作さん(65歳 隠岐西郷町在住 ただし住所氏名年齢全て推定)を訪ねる様子が目に浮かぶ。


「どう?最近はいいサザエは上がっちょーかいね」


「そげだね〜、先週は荒れちょったけん、あま上がっとらんけん、今週はけっこういけちょ〜と(いけると)思っちょ〜がね」


「そげかね」


「そげだにゃぁ〜」


「おっきゃん(大きい)やつは、あ〜かね(あるかね)」


「こがいに『がいな』(大きな ビッグな グレートな)やつが採れるところ、知っちょ〜けん、まかせときない」


「上がったら、連絡してごしない(下さい)」


というような会話を交わしたことだろう。


・・・っと、この調子で分析していては、いつまでかかるか分からないので無念の筆を置く。速読によって日々鍛錬している筆者の「右脳による映像イメージ」には、上記のようなやりとり及び情景が、なおも続いて浮かび上がったのであるが、残念である。先へ進もう。


・・・で、サザエが届いた。発泡スチロールの箱に入ったサザエが何と21個!


二手に分けて野球をしたら、2チームまるまる確保した上で、主審1名、塁審2名まで取れる!というのが21という数である。


日本海の荒波に洗われたたくましいサザエ」たちは、我が家5人、義父母、いつも愛犬がお世話になっている散髪屋さんでビールが大好きなのNさんご夫婦(ここのご主人は釣りが趣味で、大漁の際はなぜか我が家に持ってきてくれる)の胃袋にしっかりとおさまったのでありました。


Y山先輩、ごちそうさまでした。原稿がいりようでしたらいくらでもお申し付け下さい。



次は「イカの沖漬け」なんていかがでしょうか。