1138話 皮膚の下の戦い

幾人かの方にお見舞いのコメントを頂いた筆者の『顔面崩壊』『猿の惑星化現象』であるが、すっかりもとの顔に復帰した。


見ると、上の右前歯の歯茎に傷がある。


一週間前、最初上下前歯の歯茎の腫れと感じていたのが、翌日「痛〜い腫れ」になった。


かなり痛かったけれど「一眠りごとに変化はある」という妙な確信があって、痛い痛いと目が覚めること夜中に4回。しかし、ほんとに一回ごと痛くなくなるので、納得の筆者であった。


その後、痛みは鼻の下を中心に広がる。調べると圧痛点は鼻にそって目の下まで、またほとんど普段はない「コリ」が肩甲骨の内側までに及んでいる。


痛みと同時にどんどんと腫れてきて、鼻の下が『猿の惑星化』し、さらにほっぺたがふくらんだ。法令線が消え、上唇のみが下唇の倍ほどの分厚さになる。


炎症反応なんだろうけれど、首から上が風邪を引いて熱っぽい時期が続いたのが最初の3日ほど。痛みらしい痛みがなくなったのは4日5日ごろ。顔の輪郭がましになったのが6日目。影響らしい影響が全て消えて、ちっぽけな歯茎の「傷口」がはっきり分かったのが7日目。


傷口が歯茎なんだから、そのあたりだけが腫れればいいようなものだけれども、さまざまに変化していく今回の反応の移ろいはなかなか楽しかった。


一般的には「歯茎の傷口から菌が入って、炎症を起こし、顔の下半分に広がった」ということになろう。


しかし、筆者は「歯茎だけにはまかせておけないので、その他の部分が助っ人を買って出た」と感じた。続々と助っ人が名乗り出た結果、外見はぶさいくだけど、生命が脅かされるようなことなく、処理するべきことをそれ相応の時間でちゃんと仕上げた、と感じた。


発熱だって、免疫細胞の熱気・活気と感じた。


生命の危機は感じなかった。生命がやばい、ということになれば、筆者だって医者のもんを叩くのはやぶさかではない。しかし、こうやってまかせておいたらワッショイワッショイと処理してくれるのであるから、抗生物質などにじゃまされたくない。もう戦場は顔の内部に移っているのだから、気休めのように消毒されたくない。


安心の根拠は「日々変わっていく反応と部位」である。


痛みそのものも減少していくし、寝るたびに何か変わって落ち着いていくし。そうやって毎日変わっていきつつ軽減しているとしたら、うまくいっていると思うしかないではないか。


我が身体は我が身の鼻の穴が広がるように腫らした時、法令線が消えるほどほっぺたをふくらました時、猿の惑星に見えるように鼻の下や上唇を腫らした時、それぞれ、その皮膚の下やら血管の中で何をされていたのであろう。きっと血湧き肉躍る展開があったのであろう。

見えないけれども、何かその「うごめき」が、楽しかったのである。