1179話 あっ、それ読みました 2


セカンドセルフ(分身稽古)をやっていて、


「あっ、それって風姿花伝に似た内容がありますよ」


と教えてくれた人がいた。


昨日書いたように、まったくプレーに影響していない「インナーテニス」を読んだテニスコーチたちがいる。


数ヶ月前までの自分がまったく同じ次元だったことは棚に上げて、この続きを書くことにするのである。


「あっ、それ読みました」とか「知ってます」というセリフを、なんら恥ずかしがることなく堂々と言ってどうするの。


同じタネを手に入れた。


片方の人は、それを蒔いて、育てて、花を愛でて、実を収穫して美味しく食べた。その花があまりにもきれいで、その実があまりにも美味しいので、みなさんにせっせと配りながら


「この種がこの花を咲かせて、この実をつけるんですよ」


と説明したら


「あっ、ぼくその種持ってましたよ」


と威張っているようなもんだと見えてしまう。


種を持っていたことを「対等」に話をする感覚の間は、残念だけれども何を読んでも、何を受講しても身につかない、ということは強く強く実感してきた。


逆もある。


最近の稽古では、自意識がいかに「実らないことを堂々とやっているか」という実例をあげて、「改心」(笑)のきっかけになるようにしている。


木曜日のS本さんやかよちゃん、A甲さんらは「ぎゃ〜、そんなんいっつもやってます〜」と相当にショックを受けていた。脳が「ぐわんぐわん」となり、自分の存在の根底が脅かされるような感覚を持ったようだ。


こういう反応の場合は、見込みがあると思う。


にこにこと「参考になりました」と帰っていく人は、何にも変わらない。


土曜日のY二郎さん。


稽古が終わって、退出するというところで、筆者の前にやってきた。


そうとうにこたえた、という表情である。


正座した彼いわく


「う〜、う〜、あ〜、あ〜、」


「…」


「…、あの〜、はやく人前に出せる自分になります〜」


ずいぶんと口ごもり、それだけの言葉を絞り出して深々と礼をしてから帰られた。