1188話 上手くなるということ 4
過去3回、観察力・感知力を上げることが上手くなる為には必須だ、ということを繰り返し書きました。自意識はほとんどじゃまにしかならない、ということも書きました。
昨日分で『ほとんどの人は自分がやったことを感じないで、『やろうと思ったこと』を感じているのです。』と書きました。
自意識の悪さはこれだけにとどまりません。
自意識は「実際をありのまま感じないで、自意識が感じたい部分だけを感じている」のです。
梅雨も明けました。夏本番です。すっかり暑くなりました。どなた様も挨拶は開口一番
「死ぬほど暑いですね〜」
とおっしゃる。ので、最近は受講生の方々にこういう質問をしております。
「どこが?」
「へっ?」
「全身が・・・」
「全身のどこが?」
「上半身!あっつい、あっつい!」
「上半身のどこが?」
「首から上ですやん」
「首から上のどこが?」
「顔ですよぉ」
「顔のどこが?上?中程?下?」
「ほっぺたがほてってます」
「ほっぺた以外は?」
「足よ、足。足が暑いの、せんせ」
「脚のどこが?」
「ふともも!」
「ふとももの前?後?外?内側?」
「前側の半分ぐらい」
「そこだけですか?」
と、このあたりまで会話が続けば、ご本人そうとう観察感知力が発揮されてきていますから、ご自分で絞り込んで発表します。
「後は手のひらだけですね」
なんて、ご自分で絞り込んたコメントが返ってきます。
ということは、ご本人が死にそうに全身が暑くて暑くてたまらない、とおっしゃっていた実態は、ほっぺたと手のひらと太もも前面の半分ぐらいで、後は調べてみるとそうでもない、というのが実態だったわけです。
調査の途中で「せんせ、すいません。暑くなかったです」
と言われる方もあります。
ね、自意識ってやつは、感じたことを言わずに、感じる前に「感じたいこと」を言うでしょ。
この感覚を補正するだけでも、演技は変わります。
言い換えれば、何の根拠もなく「暑い」という粗雑きわまりない感覚をのさばらせておいて、人様に見せるレベルの演技に上達するとは思えないのです。
未来演劇塾の参加のみなさん。おそらく今までやり慣れた方法とはずいぶんと違う演技へのアプローチ方法が提示されます。
すると、みなさんご自身はまったく悪くないのですが、みなさんの「自意識」が抵抗し
「難しいですね」
などとおきまりのセリフを言います。きっと言います。
そういう場面では、みんなで声をそろえて
「どこが?」
と聞きましょう。「難しい」というセリフを口にできるのは、どこが難しいかをちゃんと感じ取った人だけなのです。安易に「難しい」というセリフを口にしてしまうと、自分が「どこが難しいかちゃんと確認して把握しているレベルの人」だと錯覚してしまいます。
「難しい」のではなく、「手が出ません」とか「自意識がチャレンジにストップをかけています」という具合に正しく自分の状態を理解していれば、次の一手が出ます。
しかし、自意識の悪さはこの程度ではとどまらないのです。