1312話 喜びのアイーン
朝、実家のリフォーム相談にちょこっと顔を出して、「その道に詳しい」順子に交代してもらって、のち神戸へ。
Mさんのお母さんが、脳梗塞で倒れて右手が利かないということでお見舞い。
Mさん、習い覚えた整体で、なんとかお母さんの回復を助けたいのである。
確かに、だらりと下がって右手は数センチしか肘が曲がらない。上がらない。
手を上げる練習を手助けして手伝うんだったら、こことここに手を添えれば上がりやすいね、とかここに指を当てると動くねとか、頭のここに指を置いたら閊えが外れるみたいやね、とか色々手を添えているうちに、むくむくと手が動き出し、お腹の前胸の前を稲妻型にくの字くの字を描いて、首まで上がるようになる。
お間違いのないように。
脳梗塞の麻痺が一瞬で取れた訳ではない。
おそらく体の使い方が変われば、その程度は動くような程度の麻痺だったのだろう。
しかし、その手を「ダンベルを上げるような部分的な使い方」をしている間は、数センチしか動かなかっただけなのである。
筆者が結果的にお手伝いをしていたのは、動くのに使っていなかった処を、腕を上げる行為に参加してもらう道筋をつける部分である。
腕がすっと上がったわけではない。
稲妻型に時間をかけて上がっただけである。
しかし、それだって倒れてから20日間で数センチしか動かなかった手が、20分で距離にして30センチ以上動くようになったのだからそれでいいじゃない。
動かない処はそのままかもしれないが、お母さんは肩関節、肩甲骨、背骨のうねり、腰の角度を使って腕をあげていった。
しかし、そうやって「動くところに囲まれた状態」で喜びに包まれて動かしているうちに麻痺部分が回復していく可能性と、動かないところをひたすら動かそうとしてもどかしい思いの中で回復を図るのと、どちらが回復する可能性が強いかと言えば、疑う余地はないところだ。
ということで、Mさんのお母さんは、筆者が帰った後も、ひたすらベッドの上で、「アイ〜ン」をくり返していたそうである。
とって返して、劇団未来の11月公演へ。
今回は5人の少人数芝居。うち4人が夏の演劇塾受講のみなさま。
その続きは明日