1324話 古民家生活
「紀泉わいわい村」という「再生古民家で何十年前の暮らしの道具で生活を体験し、宿泊できる」という施設に義父母、義妹一家と行く。
人気はあるのに、広大な敷地に宿泊できる古民家が6棟しかないので、なかなか泊まれるものではないらしい。
義妹が、半年前の申し込み日の10時一分前から電話をし続けて、3回目のチャレンジでついに取れたのが今日である。
おおお、まさしく「昔のおうち」。
屋根は茅葺き(ただし、とたんをかぶせてある)、おふろは薪、ご飯は羽釜でかまどで炊き、夕食の鍋は炭火で囲炉裏で、というしつらえである。
しかし、薪というのは現代人にとってはなかなか手強いもので、火力調節はおろか、不慣れな人にとっては火を点けるだけでも難しかったりする「薪あしらい」である。いつまでたっても風呂は水のまま、ご飯は生煮え、鍋は「水炊き」にならず「水びたし」ということもありうる。
よって「屋根ソーラー温水器」「IH調理器」なども完備され「不測の事態」に対応できるようになっている。
自宅から車で一時間弱。
実はひろきだけが来ていない。彼は「高校駅伝近畿大会」で白浜の近く、富田へ出場しているので今日は自宅でお留守番。
しかし、かつて生駒合宿では、囲炉裏にて自由自在に強中弱のたき火を起こし、「炎の料理人」と呼ばれたひろきにはぜひこの楽しさを体験してほしい、ということで電話。
電話も携帯電話は圏外。したがってメールで伝言という訳にもいかない。事務所の公衆電話から連絡を取ること2度でつながる。
駅伝の結果は40校中37位であるから、順位だけでいえば「おおお!」というものではない。
しかしながら、二年連続メンバー不足で出場できなかった駅伝で、開催県ワクに救われたといえ近畿大会に出場をはたし、かつ県大会よりも4分以上タイムを速くしての近畿大会であったという。
駅伝には、先頭チームから10分以上差が開いてしまうと、自動的に失格、後は白いたすきを渡されて、どんなに挽回しても着順には加わらないという恐ろしいルールがある。
先頭を走っていたのは、駅伝界の全国トップレベル「西脇高校」である。
彼らから10分離されなかったぞ!ってなところで、順位はさておき、出場男子チームにとっては「勝利に等しい37位」ということであったらしく、上機嫌はひろきは
「おい、めっちゃいいとこやぞ、一時間もかからへんから来るか?」
と声をかけると
「おう、行く!」
と即答。
ここにじじばばおじおばいとこ一同、一族全てのメンバーが衣食を共にすることになったわけである。
しかし、自動化されていない生活というのは、たしかに大変である。山のような薪を灰にしてようやく湧いたお湯が、IHヒーターでは瞬く間である。
ここでは実際に動かないと、何も次のステップに進まない。進め方を間違えると飯一つ食えない。
やったことの適不適が即座に目の前に現れる。
また、今自分のやっていることによって恩恵をこうむる人の範囲が、きわめて明確である。
まいも鉈を片手に薪を割り、風呂を沸かす。最初はおっかなびっくりだったのが、どんどん様になり、上手くなる。
囲炉裏端に老若男女ずらり12人。
みなみな元気で、にこにこと飯を食う。
幸せである。